「ねぇ、千鶴ちゃん……」
「鬼ごっこしようか?」
その言葉が……全ての始まりだった。
「んで?誰が鬼をやるんだ?」
「なんだよ、新ぱっつあんやる気満々?」
「それにしても鬼ごっこなんていつぶりだ?」
「いいじゃないですか、左之さん。たまには童心に帰るって言うのも」
「………何故俺まで…」
屯所の中庭に集まっていたのはそうそうたる顔ぶれ。
なんて言っても皆この新選組を率いる幹部達だ。
そんな彼らがこんなところでそろって何をしようとしているかと言えば……
「あの…本当にやるんですか?……鬼ごっこ」
それは一番組、組長沖田総司の言葉により始まった。
『今日皆で鬼ごっこしようよ』
朝食後、彼は前触れもなくそう言った。
そして今、その言葉を叶えるために集まったのがこのメンバーなのだ。
「あたりまえじゃないか」
ニッコリと笑う沖田に、千鶴は内心心配でたまらなかった。
「(何か企んでるんじゃ……)」
そしてそう思っているのは彼女だけでなく、ここにいる面々は皆同じことを考えていた。
……ならばなぜ、彼等は集まったのか。
それは彼女、雪村千鶴が沖田から逃げられない……いや、沖田が彼女を絶対に無理やりにでも鬼ごっこに参加させるであろうとの確信からだった。
沖田は前々から彼女をからかったり、悪戯したりしているため、今回もそう言った類であると心配したのだ。
「(まぁ、俺らがいればおかしなことはできないだろ)」
「(総司のやつ…千鶴に何かしたら許さないかんな)」
「(それにしても難儀な奴に気に入られちまったな…千鶴は)」
「(………何もなければいいが…)」
そんな彼らの心配をよそに、元凶は活き活きとした表情でルールを説明する。
「逃げる場所はこの屯所内ね。あと今回はちょっと面白い仕掛けを用意したよ」
「仕掛け?」
首を傾げる千鶴に他の男たちは、
「(やっぱり何かあるのか!?)」
予感的中だと頭を抱えた。
……しかし、沖田の計画は彼らが思っていた以上にえげつなかった……
「実はこの屯所の何処かに土方さんの㊙帳落としちゃったんだよね~」
「「「「「ええ!?」」」」」
「んで、そろそろそれに気づいた土方さんが、それはそれは恐ろしい形相で探しに来ると思うんだよ」
「「「「「…………」」」」」
「だから鬼は土方さんだよ。んで逃げるついでに㊙帳も探してきてほしいなー」
「「「「「俺達(私達)を巻き込むな(巻き込まないでください)!!!!!!!!」」」」」
全員が全力で入れたツッコミも全く気にしてないようにニコッと沖田は笑った。
それは泣く子も固まるほどの真黒な笑み。
「別に逃げなくてもいいよ?……でも僕、実は『だみー』も用意してたんだけどそれも落としちゃったんだよね」
「だみーってなんだよ?」
「土方さんの句帳の偽物だよ。その中にはここにいる面子のあることないこと書いてあるんだ」
「な!?ど、どういうことだよ総司!?」
ドキリとした顔で沖田に詰め寄る男たち。
「だから…たとえば、昨日また左之さんと新八さんが抜け出して飲みに行ってたとか…この間平助が土方さんの部屋の襖を破った犯人だとか……」
「「「なんでお前が知ってるんだ!!」」」
「あはは。そんなの企業秘密に決まってるじゃないですか」
さわやかに笑う姿に千鶴はやっぱりこの人は怖いと再認識した。
「あ、勿論一君のや千鶴ちゃんのもあるよ。しかも千鶴ちゃんのは特別製。なんと千鶴ちゃんの写真(セミヌード)プレゼント!!!」
その言葉に一同沈黙の後、
「沖田さんーーーーーーー!」
「「「「総司ーーーーーーーーーーーー!」」」」
大絶叫が響いたのだった。
「あはは。さぁ逃げようじゃないか!
……あの鬼副長からw」
そして、壮大なリアル鬼ごっこが開始されたのだった……
続く
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