はらり、はらりと流れ落ちるように散る花弁。

薄いピンクの花弁が今年も春を教えてくれる。


――桜――

――始まりと終わりを告げる美しき花――


……今日は、薄桜学園の卒業式です。






卒業







「おめでとうございます」

そう言って一人一人にリボンのついた花をつけていく。
卒業生の顔は皆晴れやかだったけれど……何処か悲しげにも見える。

「卒業、おめでとうございます」

そう、今日はこの学校の卒業式。
そして……私のよく知る人たちも……今日で卒業となった。






「卒業、おめでとうございます!土方さん、原田さん、永倉さん」

「おう」

「サンキューな」

「うっううう…ウオー!!卒業したくねぇ!!」

式も終り、会場から沢山の卒業生と共に出てきた彼ら。
この三人が今日で卒業してしまう……

「泣くなよ、新ぱっつあん!」

「泣いてねぇ!これは青春の汗の心の涙だ!!」

「あはは。わけわかんないですよ。新八さん」

大泣きの永倉さん。それを見ていた私に原田さんが式中からづっとあの調子だったんだと苦笑いした。

「たく…。今生の別れでもあるめぇに…」

「……土方さんは寂しくないんですか?」

私は正直寂しい。
今も永倉さんのもらい泣きをしてしまいそうなほどに……

「……寂しいっつうか…心配はあるな」

そう言って目を向けたのは……沖田さん。

「なんだってあいつが……」

「……すみません。俺が不甲斐ないばかりに」

溜息をつく土方さんに申し訳なさそうな斎藤さん。
私も事情を知っているだけに何とも言えないけれど……

「なんですか?まだ僕が次の生徒会長になったことに文句があると」

そう。土方さんの心配は…次の生徒会長になってしまったのが……沖田さんであるということだ。

「ちゃんと公平な選挙で決まったことにイチャモンつけないで下さいよ」

「うるせぇ。なんでテメェが受かって斎藤が落選してるかが未だに理解できねぇ!!」

ちなみに斎藤さんが出馬したのは、沖田さんが選ばれるのを防ぐための土方さんの刺客だったりする。

「仁徳じゃないですか?」

「お前にそれがあるとは到底思えんが」

バチバチと火花を散らす二人。
こんな時でも相変わらず……といった感じだ。

「まぁまぁ。折角の祝いの日じゃねぇか!それに此処から先は俺たちが口を出すのは野暮ってもんじゃないか?」

そんな二人を止めたのは原田さんだった。

「…ちっ」

原田さんの言葉を受け舌打ちをした土方さんは…気のせいだろうか?少し…寂しげに見えた。



「それよりも……千鶴、ほい」

「え?」

手を出せと言われて素直に両手を出すと……そこに何かが置かれた。
それは……

「ボタン…」

慌てて顔を上げればニッコリと笑う原田さん。

「俺の第二ボタンはお前が持っててくれ」

第二ボタン…

「い、いいんですか?」

「おう。俺もその方が嬉しいからな」

そう言って頭を撫でてくれる。
すると……

「あ、ずりぃ!!俺も千鶴にやるからな!!」

そう言って永倉さんも私の手にボタンを置いた。

「お前なぁ……」

「左之にだけいい恰好はさせねぇぜ?」

ニッと笑う永倉さんにしょうがねぇなぁと笑う原田さん。
この光景も……今日で最後…


「あの……土方さん!」

「あ?」

私は二つのボタンを手に乗せたまま土方さんに向き合った。
その意味が分かったのか、驚いたあと……少し照れたような困ったような顔をして…

「こんなもん…何の役にもたたねぇだろ」

「それでも……」

欲しいんです。
そう言うと溜息をついて頭をかいたあと…無造作にボタンを引きちぎった。

「ほら」

私の手にボタンが三つ。


彼等は今日、この日をもって……「もらい!」

「え?」

その声と同時に手の中から一つのボタン…土方さんのボタンだけが消えていた。

「総司、テメェには必要ねぇだろうが!」

「それを言うなら千鶴ちゃんの方が必要ないと思いますけどね。ま、僕は土方さんのボタンなんて死んでも使いませんけど」

「テメェは最後まで腹が立つ…」

「沖田さん、返してください!!」

「返してほしかったら僕を捕まえてごらんよ」

そうれだけ言って走り去る沖田さん。
突然のことにただ呆然と立ち尽くした私たちだったけれど……




「んじゃ俺は新ぱっつあんのやつにするかな」

「…なら俺は左之のボタンだ」

「ええ!?」





平助君、斎藤さんまで私の手からボタンを奪って走り出した。


「なっ!?おい!!」

「なんだってんだよ全く!!」

「……斎藤まで…いったい何考えてやがるんだ…」


と、とにかく……


「私、追いかけてきます!!」

折角貰ったボタンなんだから返してもらわないと!!と走り出したら…何故か三人も付いてきてくれた。

「お前一人じゃあの三人は捕まえらんねぇだろ?」

「そうそう。それにあのボタンは俺らが千鶴にあげたもんだ。あいつ等に持っていられるってのも気色が悪いしな…」

「……とにかく、奴らを捕まえねぇと俺たちはおちおち卒業も出来やしねぇってことだ」

なんだかんだと言いながらも…楽しそうな三人。

きっと…わかってるんだ。皆。


これが最後の……


大騒ぎ……




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