「どこに行ったんでしょう?」

「たく…最後までホントしょうがねぇ奴らだ……」

そう言って苦笑いする土方さん。
私たちは沖田さんを追って校舎に入っていた。
ちなみに永倉さんと原田さんはそれぞれ別に追いかけてる。
私は沖田さんを探して辺りを見回すけれど、影も形もない。

「いませんね…」

「アイツは逃げ脚だけは昔から早いんだ…おかげで俺がどんだけ苦労させられたか……」

「そう言えば沖田さんと土方さんは昔からの知り合いなんですよね?」

「ああ。俺が通ってる道場で初めて会ったのが……たしか俺が五つか六つの時だな」

「そんな頃からもう竹刀を!?」

土方さんは剣道部じゃないけど、たまに試合に助っ人で呼ばれるほどの腕前。
何度か道場の方にもお邪魔させてもらったことがあるけど、ホントに強かった。

「まあな。んで、年の近い俺が総司の面倒を見てやれってことになってよ…」

そっからの付き合いだ……と、今までのことを思い出したのか溜息をつく。

「あはは……あれ?」

その様子に何ともいえず苦笑していると、廊下の向こうにチラリと何かが見えた。
あれは……

「土方さん!沖田さんです!!沖田さんがいました!!」

「何!?何処だ!」

「あっちの校舎のあの教室にチラリと見えたんです!!」

「あの教室…?」

廊下の突き当りまで行き、そこから見える第二校舎の一つの部屋を指差す。

「あれです!」

「あの教室は……生徒会室じゃねぇか」

「え?」

そこは……私達に馴染みの深い…生徒会室だった……






「おい、総司!!!此処に居やがるのはわかってんだ!」

バン!と、勢いよくドアを開ける土方さんの後ろから教室をのぞけば…案の定沖田さんがのんびり座っていた。

「遅かったですね。もっと早く来ると思ってたのに」

「んなもん知るか!それよりさっさとボタンを返しやがれ!」

そうだ、ボタン!
土方さんと昔の話をしていたりしてすっかり当初の目的を忘れてた……

「ああ、あのボタンなら何処かに落としちゃいましたよ」

「なんだと?」

「別にいいじゃないですか。卒業するならいっそ何にも残さず、すっぱり居なくなってくださいよ」

「なっ!そんな言い方って……」

酷過ぎる……まるで早くいなくなれと言ってる様じゃないか。

「しょうがないだろ?僕は土方さんがいなくなって嬉しくて仕方ないんだから」

ニコニコと笑う沖田さんを思わず睨みつけてしまう。
だって酷いじゃないか。こんな……お別れの日に……

「千鶴」

そんな私の肩を押さえたのは土方さんだった。

「まあ、俺も清々してるさ。これでやっとお前のお守りから解放されるんだからよ」

「お守りなんてしてもらった覚えないですけどね」

教室に冷たい空気か漂う。
これが……こんなのが最後だなんて……


「っ……」

「千鶴?」

「千鶴ちゃん?」


あんまりだ。




その時、ガラリとドアが開いて……


「あー!!何、千鶴を泣かしてんだよ!!」

入ってきたのは…平助君、

「どういうことだ…」

斎藤さん、

「おいおい……何したんだよ、お前等!」

永倉さん、

「こんな日まで何やってんだか……」

原田さんだった。


「別に……何もやってないですよ」

「だったら何で千鶴が泣いてんだよ!」

「ほら大丈夫か?千鶴」


いつもと同じメンバーにいつもと同じ空気。


「…ふぇ…」

「千鶴?」



これが今日で終わりなんて……もう耐えられなかった……








「うわ!もっと泣きだしたぞ!?」(永倉さん)

「な、泣くな千鶴…」(斎藤さん)

「ホント何したんだよ、土方さんと総司!」(平助君)

「だから…何もしてねぇって言ってんだろうが!!」(土方さん)

「だったらこんだけ泣くかよ」(原田さん)


「………はぁ…」

沖田さんはまだ涙が止まらない私の前に回り、ため息混じりに顔を覗き込んだ。
そして……

「これが欲しいんでしょ?あげるから泣きやんでよ」

そう言って手に乗せたのは……ボタンだった。

「こ…れ……」

「うん。土方さんの」

「お前……捨てたんじゃなかったのか?」

驚いた様子の土方さんに沖田さんが笑う。

「やだな。落したとは言いましたけど、捨てたなんて言ってませんよ」

んで、僕のポケットに落ちてたんです。と白々しい嘘をつく沖田さん。

「あ、そうだ。これも返すな」

「……」

平助君と斎藤さんもボタンを返してくれる。
私の手に……また三つのボタンがそろった。


「それで、お前等は何がしたかったんだよ…」

さっぱりわからんという顔をする永倉さんに対して…私はわかった気がする。

「ここで……この生徒会室で……最後に集まりたかったんです…」

顔をあげて、そこにいる面々の顔を一人づつ見て行く。
きっとこの場所でこのメンバーが集まることはもう……ないだろう。

「……別に僕はそんなこと考えてないけどね」

プイっとソッポ向く沖田さんに、平助君と斎藤さんが顔を見合せて笑う。
きっと二人には分かってたんだ。沖田さんの気持ち。

「ま、たしかにここが一番思い出深いって言えばそうだな」

しみじみと笑う原田さんと、

「ああ!やっぱ卒業したくねぇ!」

と、叫ぶ永倉さん。
それに対して平助君が、卒業できたことが奇跡だよなと私に耳打ちした。

楽しいな。

終わらせたくない。


でも……


「今まで……ありがとうございました。土方さん、原田さん、永倉さん」




「あー泣くなよ…俺も泣いちまうだろ?」

「お前は式中から泣いてただろうが」

「……」

土方さんが…ゆっくり私に近づき、私の頭を撫でた。

「こいつ等のことはお前に任せる。何かあったら言えよ」

「土方さん……」

また、涙が出そうになる。
駄目だ。もう泣いちゃ……笑って送り出さないと……

「任せてください」

そう言って笑えば……土方さんも笑ってくれた。


「土方さん、卒業しても出しゃばってくるつもりですか?」

「お前に任しておいたら、斎藤とコイツが過労死するだろうが」

また憎まれ口を叩きあう二人だけど何処か楽しげで……


「僕等の心配なんてしてる暇ないでしょ?こっちのことは僕らに任せて……これからのことを考えてくださいよ」

「…お前」

「僕だってそんな子供じゃない。大体去年土方さんが出来てたことが僕にできないはず無いでしょ?」

心配なんて馬鹿にするな。
そう言う沖田さんは…いつもとは違う、真剣な目をしていた。

「会長…いや、土方さん。俺がちゃんと見張っています。馬鹿な真似はさせません」

「俺も、俺も!!大丈夫だって!左之さんや新ぱっつあんには負けねぇかんな」

「そうですよ。これからは…私達が…この学校を支えます」

新しい会長の下で……

「言うじゃねぇか。んじゃしっかりやれよ?たまに見に来てやる」

「だー!平助のくせに俺を超えようった十年早ぇ!!」


「……任せたぞ」






そして……


私達は歩き始める。

新しい一年を………





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終わった。
この小説は、キリ番のリクに、[現代パロ:ギャグ:土方さん可哀想]と言うリクをもらって、考えた話……だった。
でもギャグにならなかった……ので、普通にアップ☆
自分の卒業式を思い出して…私、あのノリに弱いんです。涙脆いんです…妹の卒業式で号泣したほどです(馬鹿)
今度オマケも書きたいな……左之さんや新ぱっつあん編を…

※卒業ネタが書きたかっただけで全くこれまでの話とこれからの話に関係ないですよ。
てかホント学パロの短編集だな。


3月11日 風舞 葉