「えっと…次は……」

私は今、バレンタインのチョコレートを製作中です。




バレンタイン戦争〜前夜〜






「よし。あとは焼くだけ…かな?」

オーブンに生地を入れ、スイッチを入れる。
あとは時間が来るのを待つだけになった。


去年まで、私が作るのはお父さんと薫と…あとは友達と交換する分とかそんなチョコばかりだったけど……

今年は違う。

「皆喜んでくれるかな……」

今年はあの生徒会メンバーにあげることになったのだ。

もともとお世話になっているから何か作ろうとは思っていたけど、今年のバレンタインはあいにくの土曜日。
休みの日じゃ渡せないから前日にでも持っていこうと二月に入ったころから思っていた。

しかし数日前突然、


「おいテメェ等、土曜学校に出て来い」

鬼の生徒会長土方先輩が言い出したのだ。

「えー、やですよ。なんで休みの日にわざわざ学校に来なきゃならないんですか」

ぶーと口を尖らせて反論する沖田先輩。

「そりゃお前等が仕事しねぇからだろうが!このバカ共!」

その日の土方先輩はいつにもまして怖かった。
原因は卒業式や、入学式が近づいているせいもあるだろう。
もっとも、沖田先輩を始め生徒会面々が仕事をさぼる所為もあるのは確かだけど。

なおもぶーぶーとブーイングが起こる中、斎藤先輩が(仕事をしている数少ない人材)私を見た。

「……会長、千鶴も強制ですか?」

他はともかく。と土方先輩に言う斎藤先輩にも「ともかくってなんだよ」とブーイングが起こったが本人は無視した。

「あー…千鶴か…お前は別に来なくてもいいぞ」

「えー、千鶴だけズリー!!」

平助君が身を乗り出したが……

「こいつはお前らがサボった分、俺の手伝いをやってたんだよ!」

そう言われ、うっ…と言葉をなくす平助君。

「で、でもそれを言うなら斎藤先輩も…」

私より斎藤先輩の方が土方先輩とがんばってるのに…そう思って言ったが、

「会長一人では見張りきれんだろう」

と事もなげに言ってしまう斎藤先輩にやはりブーイングがわいた。


そんな時、

「ま、しゃーねぇんじゃねぇか?土曜はバレンタインだしな」

何処でサボっていたのか原田先輩と永倉先輩が部屋に入ってきた。

「お前ら…今日は会議だと言っておいただろうが!!」

怒鳴る土方先輩にまあまあと宥める原田先輩。
永倉先輩と言えば、

「え、今年のバレンタインは土曜なのか!?」

「カレンダーくらいみたらどうだ」

ショックを受ける永倉先輩に鋭い言葉を投げる斎藤先輩。
案外、気が立っているのは土方先輩だけでは無いのかも……

「別に新ぱっつあんには関係ないだろ〜?どうせ一個も貰えない口だろ?」

ケケっと笑う平助君に掴みかかる永倉先輩。

「んだとテメェ!俺だってな、毎年ちゃんともらってんだ!!」

「親家族は無しだよ?新八さん」

沖田先輩まで話に入ってきて収拾がつかなくなってくる。

「馬鹿にすんのもいい加減にしろよテメェ等!!」

と、永倉先輩が怒鳴るのと同時に、

「うるせぇ!!」

土方先輩の怒鳴り声が生徒会室に響き渡った。



「で、千鶴ちゃんは土曜日どうするの?」

「やっぱ来ねぇの?」

「あー…何が悲しゅうて男ばっかでバレンタインを過ごさなきゃなんないんだ…」

「日頃仕事をサボってやがるからだ」

「自業自得だな…」

漸く皆が落ち着いて席に着いたので、お茶を汲んできた。
配り終えてから席に着く。

前の席の沖田先輩と隣の席の平助君が私に土曜のことを確認してきた。
私もどうしようかな?と考え中だったけど……未だにうなだれている永倉先輩や、未だピリピリしている土方先輩や斎藤先輩を見ていると、私だけのんびりお休みをいただきますとは言えそうにもない。
と、言っても大した用もないのだけれど。

だから…

「私も土曜日参加させてもらってもいいですか?あんまりお役に立てないと思いますけど…」

謙遜ではなく、役職に就いているわけでもない私はただのお手伝いどまりなのだ。

「よっしゃ。千鶴が来るならやる気がでる。俺もせっかくのバレンタインに千鶴と会えないのは流石にさみしいからな」

と、嬉しそうに笑うのは原田先輩。
私とバレンタインはどう関係するのかはわからない。
バレンタイン以外は会えなくても平気ってことなのかな?

「何、左之さん、千鶴ちゃんにチョコもらう気満々?やだなぁそう言うがっついた男って」

対して面白くなさそうに沖田先輩が言う。

「なんだよ。じゃあお前は欲しくないってか?」

「僕は本命以外いらない主義だから。面倒じゃないですか義理なんて」

「えー、俺は貰えるもんは貰っちゃう派だけどー」

「平助らしいな」

なんだかチョコの話で盛り上がってくる。

「えっと……」

困った私は土方先輩に視線を向けた。

「……別に持ってこなくてもいいだろ」

「気持ちの問題だ」

騒ぐ彼らにため息を付いて答えてくれる土方先輩と斎藤先輩。

そして……

「俺はなんでもいいからチョコが食いてー!!!」

立ち上がり大声で叫ぶ永倉先輩にその場にいる私以外の全員がため息をついた……





「で、結局持って行くことになったんだよね…」

思い出しながら苦笑いした。
あのメンバーがそろうといつも大騒ぎだ。

「もともと持って行くつもりだったけど……」

持ってきてくれとお願いされてしまえば仕方ない。

それに………


机の上には今焼いているガトーショコラとは別のトリュフチョコが小さな箱に入っている。


……これはあれだ。



本命チョコ




………恥ずかしくなってきた…


「渡せるかな…」

土曜だから、会えないからと渡すことをあきらめていた本命のチョコ。
でも…当日に会える…これは渡せと誰かが言っているようじゃないか!!

……と、親友の千姫(通称お千ちゃん)に背中を押されて作ったもの。

でも……



「どうしよう…」






本番は明日
……



当日へ

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