お父さん……どうしてこんなところでお金なんて借りたんですか?
〜2〜
「んで?雪村の代わりにコイツを連れてきたと?」
「はい」
「しょうがないじゃないですか。綱道さんが見つからなかったんですから」
「……だとしても、どうすんだよ。コイツ」
「そりゃ副長の判断で煮るなり焼くなり好きにんすればいいんじゃないかな?
……なんなら、売っちゃう?」
ビクッと体が震えた。怖い怖い怖い!!!!
私は今まで生きてきた中で最大の恐怖を味わっている。
なんて言っても今いる場所が問題だ。
ここは……新選組という暴力団のアジトなのだから…
「……売るにしたってこんなガキどうにもならんだろ」
そう言って私をジロリと睨むのは、私をここに連れてきた二人曰く「鬼」と呼ばれる人。
そして逃がさないようにか私の両隣に座っている二人は名前を沖田さんと斎藤さんと言うらしい。
父の借金のかたに私はここにいる。
「副長……雪村は本当に逃げたのでしょうか?」
私の処遇について、冗談とも本気ともつかない会話を繰り広げる彼らに、マフラーの人…斎藤さんが話を割った。
雪村綱道……お父さんは逃げたことになっている。娘である私を置いて。
お父さんはそんな人じゃない!…そう言いたいけど現状じゃ何を言っても無駄で……
信じたいのに…どうしても悪い方へと考えてしまう。
「どうだかな。大体、一億なんてなんに使ったんだか……」
「え」
「なんだ?」
鬼と呼ばれる副長さんの言葉に思わず声が出てしまった。
「い、いえ…あの…」
「なんだ。言いたいことがあるならさっさと言え」
ぎろりと睨まれて内心震え上がったが、これは聞いておかなければならない…と思う。
「あの…父は…その一億を何に使うか言ってなかったんですか?」
「……まあな」
副長さんは渋い顔をして頷いた。
「たしか、研究資金をどこからも借りれなかったとか言ってなかった?」
「……なんでも常人には理解の難しい研究だとか」
あれ?と、首を傾げながら沖田さんが口を挟み、それに同意する斎藤さん。
「研究?」
「……たしかにそんなことを言ってはいたが、実際どうだかな」
「近藤さんはなんて?貸したのは近藤さんだよね」
「ああ。だが詳しい話は聞かなかったらしい。『他に当てがない』と縋られて貸しちまったんだと」
近藤さんと言うのは偉い人なんだろうか?
それにしたって事情もよく聞かずに一億も貸してしまうなんて……
その貸した相手が父なのだけど。
「うわー。いつものことながら無謀と言うか……返してもらう気があるのかな?」
たしかに。
……その借りた相手が父だけど。
「……なんだ総司、近藤さんのやり方に文句でもあんのか?」
すると急に副長さんの目が鋭くなって、背筋が凍りついたように動けなくなる。
でも、その視線を一心に浴びる沖田さんはなんでもないように飄々と笑った。
「まさか!近藤さんはそうじゃないとね。近藤さんは好きなだけ貸しちゃえばいい。それを回収するのが僕等の役目…でしょ?」
ニヤリと笑う沖田さんからも言い知れない雰囲気…殺気とでも言うのだろうか?そんな感じが漂って……すぐさま逃げ出したくなった。
でも逃げれば即殺されてしまいそうで、やっぱり逃げることはできない。
「副長、とにかくこの娘をどうされますか?」
息苦しくてたまらない。この部屋に居続ければそのうち呼吸困難で窒息死するんじゃないかと思ったとき、斎藤さんの声が静かに二人にかけられる。
「っと、そうだったな」
「んー、この際ここに置いちゃったらどうです?」
「おい、厄介事をこれ以上増やす気か」
「だって綱道さんが逃げたとも決まったわけじゃないですし」
あはは、と笑いながら提案する沖田さん。
「……確かに、この一か月以上調べても綱道さんの行方はおろか目撃情報もない」
淡々と意見を言う斎藤さん。
「もしかしたらなんか事件に巻き込まれてるかも……か」
眉間にしわを寄せ考え込む副長さん。
「てか、死んでるかも知れませんよね」
「な!?」
そしてサラリととんでもないことを言われた。
「その可能性も思慮に入れるべきだ」
「斎藤さんまで……」
「まあ、お前にとっちゃ死んでてくれれば遺産放棄で借金からも逃げられるだろうが」
「物騒なこと言わないでください!!お父さんは生きてます!!」
あんまりな言葉に思わず立ち上がり声を張り上げた。
……その衝撃で目に溜まっていた涙がポロリと零れ落ち、畳にシミを作る。
「んじゃ、お父さんを見つけ出さないとね」
ゆっくりと立ち上がった沖田さんは私の涙をぬぐってニッコリと笑った。
「はぁ…しょうがねぇな」
「もう一度雪村綱道の行方を当たってみます」
「ああ。頼んだ」
斎藤さんも立ち上がり、私を一瞥したあと部屋を出て行く。
残されたのは私と副長さんと沖田さん。
「……とりあえず、お前はここに置いてやる」
「僕等も綱道さんの行方を捜すからさ。君も手伝ってよ」
「でも…何をすれば……」
「娘のお前なら変装だろうが整形だろうがしててもわかんだろうが」
確かに顔形が違っても今まで一緒に過ごしてきた私なら役に立てるかもしれない。
「だが逃げんじゃねぇぞ?そんときはわかってんだろうな」
怖い。この人たちはすごく怖い……でも、
「……逃げません。お父さんに何があったのか、何処にいるのか分かるまで……絶対に逃げたりしません。
だからお願いします。父を捜すのに協力してください!」
お父さんが事件に巻き込まれてたり、危ない目に逢っているなら助けたい。
その気持ちの方が、恐怖よりずっと強かった。
「分かったらって……分かったら逃げる気?ちゃんとお金返してもらわないと」
楽しそうに笑う沖田さんと、
「………」
ふっと一瞬だけ笑ってくれた副長さん。
お父さん―――
私はここで頑張ってみようと思います。
もどる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
続いちゃったシリーズ1
相も変わらず話の内容と題名のフォントがギャップありすぎ(笑)
今回は土方さんが登場!
服装の描写がないのは、スーツにするか着物にするか悩んだから。
イメージ的に外はスーツ、組では着物だと思う。
でも私ギャグ専門だと思ってたけど意外とシリアスも楽しいな(シリアスか?)
この話はこのまま薄桜鬼の原作に近い現代版を行こうと思って…るかも(未定)
でも意外と違和感無いな……
2月1日 風舞 葉