「ちー」

私の愛娘(仮)は、何故か私をちーと呼びます。




親父は誰だ!? ベイビーパニック!

〜ちーはママ〜






「ちー!」

「はいはい」

屯所内、雪村千鶴の部屋には今や子供用の玩具や服でいっぱいであった。
そのすべてが贈り物であることは言うまでもない。

お座りができるようになったばかりの千代は千鶴がいないと落ち着かずいつも「ちー」と呼んでは泣き出す。
だから千鶴はいつも千代のそばを離れられず、動く時は背中に背負って行動していた。

「よしよし。千代はいいこだね」

千代が来て2週間。さすがに慣れてきた様子であやす千鶴。
だけどそんな千鶴にも少し不満があった。

「……千代、か・あ・さ・まって言ってみようか?」

「う?」

それはその呼び方だった。




「どうした雪村」

「斎藤さん…」

縁側でぼーっと外を眺める千鶴に声をかけたのは斎藤だった。
その千鶴の腕の中では千代がスヤスヤと眠っていた。

それを見た斎藤は一度踵を返すし、もう一度千鶴のもとに戻って来る。
その手にはひざかけ。

「……今日は温かいが風邪を引くやもしれん」

そう言ってそっと千代にかける様はとても優しげで。

「ありがとうございます」

千鶴は嬉しそうに笑った。

実はこういった気遣いは斎藤に限らない。隊の幹部達はみな二人を気遣ってくれる。
部屋の千代の物しかり、日常生活でもだった。
そんな人達の温かさをしみじみ感じて、千鶴は千代と共に幸せな日々を送っていた。


「……どうかしたのか?」

「え…?」

日ごろの感謝を思い出していた千鶴の横に腰かけた斎藤が顔を覗き込むように問うた。

「何か不都合でもあったか」

「えっ?そんな…皆さんにはすごく良くしてもらって…感謝してもしきれないほどです!」

思わず声を張ってしまった千鶴に斎藤が口を押さえた。

「起きてしまうだろう…」

「す、すみません…」

恐る恐る千代の様子を見れば、ぐっすりと眠っている。
二人はほっと顔を和ませた。



「斎藤さん……実は、私ちょっと悩んでることがあるんです」

斎藤なら…と千鶴は自分の悩みを打ち明けることにした。

「悩み?」

「はい。と言っても取るになり無い様なことなんですけど……」

そう前置きしてポツリポツリと話し始めた。


千代が自分をちーと呼ぶこと。
それ自体はいやではない。むしろ嬉しいのだけれど……
母親だというのなら、なぜ呼び捨てなのか?

……私はやっぱりこの子の母親ではないんじゃないか?


そんな悩みをただただ斎藤にぶつけた。
千鶴もそんなことを斎藤が言われても困るだけだとはわかってはいたが、誰かに聞いてほしかった。

そんな千鶴の話を口をはさむこと無く聞いていた斎藤は、千鶴の話が終わったあと一言こう言った。


「それは……父親があんたを呼び捨てにでもしてたんじゃないか?」


「え」


その言葉は千鶴には考えもつかなかった話だった。


「それに未来云々の話は正直信じられんが…千代は千鶴に一番懐いてる。それに千鶴の名前以外の言葉をまだ知らない」

それはあんたが母親だという理由にはならないのか?と真っ直ぐに見つめられ、
告げられた言葉に飾り気はないが千鶴のもっとも欲していた言葉だった。


すると千代が身じろぎ、目を覚ました。

「うー…ちー…?」

「……千代…ここにいるよ?」

ちーと呼ばれた瞬間、千鶴は思わず泣きそうになった。
この子にとって母親は私なんだ……そう再確認したようで。


「斎藤さん……ありがとうございました」

馬鹿にするでもなくちゃん話を聞き、真面目に答えてくれた斎藤に感謝の言葉を述べた。

「気にするな」

そう言って斎藤は立ち上がろうと……したが。

「うー…」

「千代?」

千代が斎藤の着物の裾を握りしめていた。

そして……

「さー?」



「………」

「………」



「斎藤さん……耳が真っ赤ですよ?」

クスクスと笑う千鶴にふいっと顔をそむけた斎藤だったが、何を思ったか千代を抱き上げた。

そして……


「は・じ・め……だ」



千代に向って真顔で言う斎藤に千鶴は堪え切れずに笑いだしたのだった。



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斎千?ぽく。
この親誰(略した)を考えたときに、一番に思い浮かんだネタ。
斎藤さんでやりたかった……案外誰でもできたけどね。
目指したのは左之ED風?
これからもこんな調子で疑似親子を書いていきたい……

2月1日 風舞 葉