「つーことで…頼んだぜ!土方さん!」

「はぁ…しょうがねぇな…」

「すみません…お忙しいのに…」

「お前は気にすんな。たまにゃ息抜きもいいだろよ」







親父は誰だ!? ベイビーパニック!
〜未来(理想)予想図〜











「…にしても…鬼副長と呼ばれる俺が子守とはな」

自嘲気味な言葉だと自分でわかってはいるがどうにもならない。

「……母親がいないってのに呑気な寝顔だな」

そばに敷かれた布団に転がる赤ん坊を見れば、スヤスヤ気持ちよさそうに寝入ってた。



そう、今この赤ん坊の面倒を見ているのは鬼副長、土方歳三である。
なぜこんなことになったかと言うと、最近育児と仕事で走り回っている千鶴に休みをやりたいと藤堂が言い出したことが切っ掛けだった。
それに同意した幹部面々に渋々(外面だけ。内心賛成してたでしょ?/by沖田)頷いたのはいいが……


「なんだって俺に…」

次から次へと賛成していた者が用事があるだの、仕事があるだの子守を辞退しだしたのだ。

「俺だって仕事があるってのによ…」

極めつけはそれを見た千鶴が休みを辞退すると言い出し……なぜか土方が皆に責められるような目を向けられたのだ。

「……図られたな」

その時の彼らを思い出して決定的になった予想。
おおよそ千代とあまり顔を合わさない土方に、たまには相手をしろとでも言うのだろう。



自室で一人書類に向き合いながらボソボソと恨み事をこぼしていると……

「うぁ…?」

「あ?なんだ、起きちまったのか」

赤ん坊…千代が目を覚ました。
千鶴を探しているのか、うろうろと視線を彷徨わせる千代。

まさか泣くんじゃないだろうな…と警戒した土方だったが、それは杞憂に終わったらしく……

「うー!」

「んだよ」

土方を見つけ、その小さな手を伸ばした。
が、子供の扱いにいまいち慣れていない土方はどうしたらいいものかとその手を取るのに躊躇った。
昔沖田が小さいころに相手をしてやっていたことがあったが、あれは別物。
可愛げも何もなかった。

と、そんなことを思い出していると千代は自分から近づいてきた。
そして、土方の着物の裾を握りしめた。

「なんだ。腹でも減ったか?」

たしか千鶴が出て行く時、飯はさっき食わしたと言っていたが……

「うーあー」

すると千代は土方の着物の裾を引いたりねじったりと遊び始めた。

「……そのまま大人しくしてろよ」

とりあえず邪魔にはならないからと千代をそのままに仕事を再開する土方。
だが……



「うーあーあー」

「………」

「おーうぇあー」

「……」



遊べ遊べと言わんばかりに裾を引っ張り声を上げる千代。
まるで幼き日の……いや、今だに変わらぬあの男を思い出す。

「てめぇ…まさか総司のガキじゃねぇだろうな…」

父親はまだ分からずじまいだが、沖田が名乗りを上げていることは知っている。
まぁ、沖田に限らず狙っている者は多いが。

「それとも何か?俺を手伝いてぇとでも言うのか?」

だったら斎藤の奴か。
勤勉な彼のことを思い出して笑う。



……俺は何を考えてるのか…土方は少し頭を抱えた。



「うー?」

ふと膝に温かいものを感じ、見下ろせば千代が膝によじ登り俺を見上げていた。

「……人懐っこさは平助に通じるか…」

いや、この間左之助に抱かれて喜んでいたのを見た。アイツは結構懐かれていたな。

結局、誰の子供なのかを考えてしまう土方だが、別段気にしているわけではなく……

「まぁ…奴らならいい父親になるだろうよ」

総司はどうだかわからんが。と千代を見て苦笑した。


誰の子でも、いずれこの子供が生まれてくるならそれなりに幸せだということだろう。
それが何年先か…何十年先かは知らないが……
明日も知れぬ自分たちに、この子供が明るい未来をたとえ幻でも見せてくれていることは確かだ。

この中かの誰かが千鶴と千代と幸せに暮らしている。
そんな想像は土方にとって、とても優しいものだった。



「だが……あの風間だという線もあるんだよな…」

千鶴に対して、妻だとか子供を産めだとか迫っているような奴だ。
もしかしたら……と言うのもある。

それならば千代には悪いが自分達が千鶴を精一杯守らねば……

千鶴は土方にとって妹の様な、ほっておけない様な…そんな存在だった。

だから幸せになるならともかく…無理矢理子供を産まされるようなことは断じて許せない。



「ん?」

気づくと膝にいた千代がいない。
何処へ行ったのかと見渡せば……

「……くぅ…」

部屋の隅で眠っていた。
しかも……

「なんでそんなとこで寝てんだ…しかも……」

浅葱色の羽織に埋もれて……



立ち上がり千代の傍へと行き抱きあげれば千代は羽織をしっかり握りしめていた。
その姿に苦笑して先ほど寝ていた布団におろしてやる。

「そんなにそれが気に入ったのか?」

羽織を抱きしめ眠る千代。
まるで……

「そんなに新選組が好きかね……まるで」

そこまでで言葉を切った。
いや、正確には言えなかった。

まるで……


「(俺みたいだ…なんて、何考えてんだ俺は!)」



思いのほか自分の考えに驚いて顔が熱くなった。
別に千代の父親になりたいとかそういうんじゃないと自分に言い聞かせるが……

先ほど想像していた千鶴と千代とそして…誰かの未来の図が自分にすり替わる。

それは……あまりにすぎた未来。


「俺は…新選組の副長だぞ…」

自分に叱咤するも……






そんな未来が来てくれればと願うことを止められはしなかった……




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あは。また千鶴ちゃんがほとんど出てこない……
やっぱり土千(代)……

土方さんはあんまりグイグイ押してくる方じゃないと思うんですよ。
好きでも遠慮…じゃないですけど一線引いてるイメージがある…

誰かと千鶴が幸せになるのはいいけど、自分だともっといいなぁ…と
でも自分じゃ幸せにしてやれるわけない。

そんなこと考えてしまう人だと思います。


2月10日 風舞 葉