「あれ?千鶴ちゃん、どうしたの?」

「あ、沖田さん!」


暇だから中庭で刀でも振ろうかと考えていた時、ちょうど千代を抱いて困った顔をしていた千鶴ちゃんに出会った。

それが僕の退屈な非番を変えた瞬間だった。



親父は誰だ!? ベイビーパニック!

〜最強の赤ん坊 前篇〜








「どうしたの?なんかあった?」

「えっと……実は…」

言いにくそうに千代を見る千鶴ちゃん。
そんな様子を見て、そう言えばと朝飯の時の会話を思い出した。



『今日の見回りは斎藤の組だったな。千鶴、一緒に行って来い』

『え…でも、千代が……』

『誰かに預けりゃいいだろ…そいつもここにきてだいぶ経つんだ。お前意外に慣れてる奴に頼め』

『……はい…』


あの時の千鶴ちゃんは凄く悩んでいるようだった。
綱道さんを探したいけど千代も気になる。

なんだかもう立派に一児の母って感じだよね。
……誰の子か知らないけど。


「千代を…誰に預けたらいいものかと…」

「うん。そんなことだろうと思った」

予想は的中。
でも時間は結構あったはずなんだけど。
それに……

「でも確か朝は平助が面倒みるって言ってなかった?」

オレ、オレ!と思いっり立候補していたはず。
まぁ何気にみんな千代の『お父様』になりたがってるみたいだから預け先に事欠かないと思うんだけどね。

「そうだったんですけど……」

あの後、山南さんに用事を頼まれてしまったらしい。

「ずいぶんいい加減だね。平助」

「で、でもすごく大事な用らしくて…」

だから仕方ないです。と言う千鶴ちゃんは健気と言いうか、お人良しと言うか……

「で、他に当てはないの?」

「それが…皆さん忙しいようで…」

よしよしと千代をあやしながらも、どうしようか悩んでいる千鶴ちゃん。
この分じゃきっと背負ってくとか言い出しかねないな。

「……やっぱり千代をおぶって行くしかないですね…」

迷惑は掛けられません。と決意したように顔をあげる。
ああ、この子はホントに分かりやすい。

「それ、やめといた方がいいんじゃない?切りあいになったらそれでなくても千鶴ちゃん戦えないお荷物なのに。一君が過労死しちゃうよ」

千鶴一人でも邪魔でしかならない。見回りは遊びではないのだから。

「……」

「千代を死なせたくないならやめとくべきだと僕は思うなぁ」

僕の言葉が聞いたのか、うつむいて何も言えなくなった千鶴ちゃんに追い打ちをかけておく。
別に意地悪だけで言ってるわけじゃない。真実だから。

「……わかりました」

黙っていた千鶴ちゃんがポツリと言った。

「今日は見回りに同行しないと斎藤さんに伝えてきます…」

「なんでそうなるの」

どうしてわかんないのかな?
僕は千代を連れていかない方がいいと言っているだけなのに。

「だって…千代を預ける人もいないのに…」

「千鶴ちゃん……君の眼は節穴?」

「な!」

僕の言葉に顔をあげた千鶴ちゃんの眼に映ったのは自分を指差す僕。

「え…?」

「だーかーらー。暇人ならここに居るじゃない。それとも僕には千代を預けられないって?」

そんなに信用がないのだろうか。
ま、信用しているとお世辞にも言えないだろうけどね。

「そ、そんなことは!」

「ふーん?でも僕のところには預かってって言いに来なかったじゃない」

「そ、それは沖田さんが非番だったからで…」

「それおかしくない?非番だからこそじゃないの?仕事してる人に頼むよりよっぽどまともだと思うけど」

「それはそうですが……」

折角の非番にお守りなんて申し訳ないとかなんとか言ってる千鶴ちゃんの腕からヒョイっと千代を奪い取った。

「あ!!」

「ほら、そろそろ見回りの時間だよ。千代のことは僕が見とくから行っといでよ」

「……でも…」

「千鶴ちゃん、僕はこう見えて面倒見はいいんだよ?」

ほら高い高ーいと千代を高く上げてやれば、なぜか千鶴ちゃんが焦った。

「わ、わかりました!!だから…その、くれぐれもよろしくお願いします!!」

「わかってるって。安心して行っておいで」

にっこりと笑顔で手を振っているのに、なぜか心底不安そうな顔でしぶしぶ玄関に向かう千鶴ちゃん。


「うーん…すっかり千鶴ちゃんは君が一番みたいだね。なんだか妬けちゃうなぁ」

「あう…うーあ」

目の高さまで上げた千代にちょっと恨み事を言ってみるけど、幼子は全く気にしないように僕の髪を引っ張った。

「痛いよ、千代」

「うー」


さて、これからどうしようかな?
千代を抱いてちょっと考えながら僕は歩き始めた。
勿論刀の訓練は取りやめにして……



後編

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千代とオッキー
前回一ちゃんが千代の虜(笑)になったので今回は沖田さんw
にしても…沖田のチョイS口調が楽しい…