「千鶴、急ぐぞ!」

「はい!」

出た時は晴天だった空は、今やバケツ…もとい桶をひっくり返したような雨。
その所為で原田達はびしょ濡れの濡れ鼠と化していた。

(……こりゃ帰ったら即風呂に入って一杯やんねぇとな。)

そんなことことを考えつつ、原田は後ろを付いてくる千鶴を確認するために振り向いた。
が、

「千鶴!?」

さっきまで居た筈の千鶴が居ない。
何処へ行ったのかと雨で視界が悪い中を目を凝らしていると、少し戻った先に千鶴らしき人影が座り込んでいるのが見えた。

「おい、何やって……んだ?」

慌てて戻り、座り込む千鶴の手元を覗きこめば……

「……原田さん…」

雨に濡れ、震える子猫。
そして…縋るような千鶴の眼差しにたじろいだ。

(いや、そんな目で見られても……)

頭にはこんな時絶対ばっさりと切り捨てるであろう鬼副長の影がチラつく。
が、やはり此処は可愛い女の子の味方、原田左之助。

「はぁ……。さっさと連れて来いよ」

「…!!いいんですか!?」

「ほっとけないんだろ?千鶴は優しいからな」

ポンポンと原田が頭を撫でてやると、顔を赤らめつつも嬉しそうに笑った。

(その顔がたまんねぇんだって……)

抱きしめたくなるのを必死で抑えつつ、そのことを千鶴に悟られぬよう笑顔で帰路を急がせた。




「もう大丈夫だからね」

急いで帰ってきた二人は、取り合ず他の者に見つからぬよう猫を隠して部屋に連れ帰った。
ちなみに、千鶴の部屋は幹部メンバーが不定期に訪れるため原田の部屋にである。

乾いた手拭いで猫を拭く千鶴の頭に別の手拭いをかけてやる。
彼女はまだ帰ってきたまま、濡れたままだった。

「千鶴、お前もさっさと拭けよ。風邪ひくぞ?」

「あ、すみません」

原田の言葉にようやく自分がどういう姿なのか思い出したらしく、小さくクシャミまでした。

「ほれみろ。猫にばっかり構ってるからだ」

「う…」

「さっさと風呂に入れ。俺が見張っといてやるからよ」

「え…い、いいですよ!原田さんが先に入ってください!」

「何言ってんだ。今にも風邪ひきそうな奴が。それに女は体を冷やしちゃなんねぇだろ?さっさと入って来い」

原田はそれでも尚、渋る千鶴を引きづるように風呂場まで連れて行き、脱衣所に放り込んだ。




その後、早すぎるくらいの時間で上がってきた千鶴と交代で風呂に入り、部屋に戻った。



が、まさか……

「あー……どうすっかね。こりゃ……」

部屋に戻った原田が見たのは、黒猫を抱きながらスヤスヤと眠る千鶴の姿だった。
風呂上がりだからか髪は解いたまま。若干着崩れた胸元。

(完全な据え膳……か?)

もはや襲うのが男の甲斐性かと思考がまずい方に進む。

しかもだ。
猫というオプション付きときた。
これは誰が見ても可愛い。



だが、それ故にこのまま見ていたいような……



悶々とどうするか悩んでいると、千鶴が身じろいだ。
起きたのかと思えば、寒さを感じたらしく子猫を抱え丸くなる。
まるで子猫を守る母猫のようだ。

その様子にふと襖に目をやれば少し空いている。
そこから外の冷気が入って来たのだろう。
外はまだ雨がやまず、時刻も夕方から夜へと変わる頃。春と言えど気温の差で肌寒さを感じる。

原田は空いていた襖を閉め、千鶴には蒲団をかけてやった。
出来れば上だけでなくちゃんと布団の上に移動させてやった方がいいだろうが起こしてしまう可能性の方が高かい。


(……しょうがねぇな)


原田にとって千鶴は特別な存在。
しかしどうにも保護欲のほうが強いようにも思える。

出来るだけ笑っていてほしい。
出来るだけ安心していてほしい。

俺の傍にいる時は……


(……恋人…ってより兄貴みたいだな…)


安心しきって眠る千鶴の頭を撫ぜながら、原田は溜息を吐くのだった。




夜露に濡れた仔猫





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ちとお題に合ってない気もするが……まぁいっか☆(オイ)
うちの左之さんはこんな感じ。異性と言うよりお兄ちゃん。
故に不憫な人……(いいとこ取られちゃう)
でも千鶴ちゃんの信頼は大きいんですよ。たぶん(可哀想)