「あ、あの左之助さん!それは私が…」

「いいって。こっちは俺が持つからお前はそっちの軽い方持てよ」

「で、でも私は男…」

「でも俺の方が力が強いだろ?」

「………はい」





奥様は新選組(by原田左之助)






「はぁ……」

千鶴はもう何度目かのため息をこぼした。

「……駄目だな…私…」

原因は自分のひ弱さ。そして奥さんのたくましさだった。
実は千鶴、身長や体力などおおよそ普通の成人男性よりずっと低い。
それは個人差というものだけれど……
奥さんが平均以上なために何一つ及ばないのだ。

背も見上げる方。

心配もされる方。


「男として……情けなさすぎる…」


それが千鶴の悩みだった。




「おや?そんなに肩を落として……どうかしたんですか?」

「へ?」

顔をあげるとそこにいたのは、見知った人物だった。

「山南さん!!」

「お久しぶりです」

彼は新選組の相談役で山南敬助。
新選組にいたころはお世話になった人物だ。

「元気そうでなによりです。原田…いえ、左之助君も元気ですか?」

「あ、はい…」

「…?何かあったんですか?」

奥さんの名前が出て思わず俯いた千鶴の態度に、山南は首をかしげた。

「え…あの……」

「何かあったのなら言ってください。こうやって久しぶりに会えたのも何かの縁かも知れませんし」

少し悩んだが千鶴は山南の言葉に後押しされ、自分の悩みを打ち明けることにした。




「なるほど……」

話終えたはいいが、話してどうなる問題でもない。
体力面は鍛えるとかそんなのもあるが(鍛えてもたいして変わらない体質だが)身長は伸ばせない。

「……それならいい薬がありますよ」

「え?」

そう言うと山南さんは鞄から小瓶を取り出した。
そこに入っていたのは血のように赤い水。

「これは理想の自分になれる秘薬なのです」

「ひ、秘薬?」

「ええ。雪村君になら分けて差し上げますよ」

そう言って山南は千鶴の手に小瓶を握らせた。

「しかし、使うときは注意してください。一歩間違えば……とんでもないことになりますよ?」

「え…ちょ…」

不吉な言葉に戸惑う千鶴を余所に、用があるからと山南は足早に去っていったのだった。






「で……」

どうしよう。
仕事から帰ってきた千鶴は未だに悩んでいた。

使うか否か。

「……飲んだら…本当に強くなれるのかな?」

正直言って怖い。こんな怪しい薬なのだから。(山南さんには悪いけど…)

「でも……」

強くなりたい。それは新選組に世話になっていた時にも何度も思ったこと。
そして今、守るべき人がいる。

「………」

それに何よりも…嫌われたらと思うと泣きそうになってしまう。
千鶴は精神的にも強くなりたかった。

「……よし」


「何がよしなんだ?」

「さ、左之助さん!?」

慌てて振り向くとそこには奥さんが千鶴の手元を覗き込むように立っていた。

「なんだ?そりゃ」

「え…これは……」

とっさに隠すが時すでに遅し。
しっかり見られていた。

「栄養ドリンク…じゃなさそうだな。薬か?」

「えっと…」

しどろもどろになる千鶴。
その様子に違和感を感じないほど鈍くもない彼女はおもむろに……

「あ!!」

「なんだ、こりゃ?」

千鶴の手から小瓶を奪い取った。

「か、返してください!!」

「何々…?」

奥さんは小瓶にかかっていたタグを読む。そこには……

『これで貴方も理想の自分に!!容姿端麗、文武両道!!動かない腕も治ります?秘密の妙薬!!』

と手書きで書かれていた。

「……なんだ、この胡散臭い薬…」

「左之助さん!それを返してください!!」

必死に手を伸ばすが、彼女の方が背が高いのでとても届かない。

「まさかお前…これを飲む気か?」

まさかな。と半信半疑で訪ねたのだったが……

「っ…」

「マジか」

明らかに動揺した夫に頭を抱えた。

「なんだってこんなもん……」

「………左之助さんには分からないです…」

黙っていた千鶴だったが、いい加減限界のようだった。


「千鶴?」

「私は……チビだし…力もないし…全然頼りに…なりません…」

ポツリポツリと千鶴の口から零れるのは今まで抱えてきた本音。
彼女との生活は幸せだった。しかし、やはり何処かで自分と彼女を比べていたのだ。

「私は…もっと…もっと強くなりたいんです!左之助さんを守れるくらい……」

「千鶴…」

苦しげな切なげな顔で語る千鶴に奥さんは目を見開いた。
そんなことを考えていたのか。
しかし……

「……お前の言いたいことはわかった」

「左之助さん…」

「だったら…これは俺が飲む」

「え!?」

そう言うと小瓶を開け、千鶴の止める間もなく薬をすべて飲み干した。

「ちょっ、左之助さん!?」

「……俺は…もっと…女らしくなりたい」

「え…」

飲み干した彼女の口から出た言葉に千鶴は驚いた。
そう、彼女もまた同じようなことを悩んでいたのだった。

「お前が…男らしくないって悩んでるのは知ってた。だがよ…俺は…お前が…そのままのお前が好きなんだ」

「……!」

「だから…変わって欲しくない…それに、そんなこと考えちまったのは俺の所為だろ?俺がもっと小さくて可愛ければ…」

「そんなことない!!」

思わず大声で左之助の言葉を切ってしまった。

「左之助さんは悪くない!私が…私が…弱いから…」

「……そんなことない」

そう言うと奥さんは千鶴を抱きしめた。

「千鶴はすっごく強いだろ?俺は何度も助けられてきた」

「…そんなこと…」

「ホントだって。それによ……こんな俺を選んでくれたじゃねぇか」

そう言って笑う彼女は泣きそうな顔で……

「(ああ、そっか…)」

不安なのは二人ともだったのだ。


「……このままの私で…いや、私を好きでいてくれますか?」


千鶴は背伸びをし彼女の頬に触れながら問うた。

それに対し彼女は、


「当たり前だろ?」


そう言って笑った顔は本当に嬉しそうで、

千鶴も笑って、愛する人に口づけたのだった。




ちなみに


「結局あの薬は何だったんでしょう……?」

「そういやそうだな。なんも変化はねぇし」


プルルルル…


「電話?」

「あ、私の携帯です。……山南さん?」

『やあ、どうも先ほどは』

「山南さん!ちょうどよかった。あの薬は…」

『ええ。そのことで電話したのですが…もう飲んでしまわれましたか?』

「え…あの…まずかったですか?」

『いえいえ。実はあれは嘘だったんです』

「嘘!?」

『はい。貴方が悩んでいたようなので解決の切っ掛けとでもなればと…』

「そうだったんですか」

『ええ。しかし……雪村君は意外とお酒に強かったんですね』

「え…お酒?」

『ええ。かなり度のきつい酒を頂きましてね。あの量を何倍にも薄めて飲むのが飲み方らしいのですが…』

「………」

『おっと、私はまだ仕事中なのでこれで…またお会いしましょう』

「あっ…ちょ!」


プー…プー…





「……左之助さん?」

「………」

「左之助さーん!!!!!!!!!!!!」









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あっまーい…のか?(聞くな)

もうあれだよ。薄桜鬼はそのままの性別が一番だよ(当たり前)
最後にせっかくだから山南さんを混ぜてー、性別逆転で生じる問題を……と…思ったら…
左之さんえらくキモイな。これはもはや左之ではない…(全国の左之さんファン申し訳ない…OTL)
いやそれ言っちゃこのシリーズ全員分土下座せねば……(全国の薄桜鬼ファンの方申し訳ない…OTL)

ちなみにこのシリーズ中、お相手を奥さん(彼女)と呼んでいたのは名前で書くのが苦痛だったからw(だったらはじめからこんなもん書くな)