「さっさと支度をしろ」

「……あの…まだ間に合うんですけど……」

「早く行くことにこしたことはねぇだろ」

「………行ってきます…」


早朝から暗い顔をした千鶴はマイホームを後にした。






奥様は新選組(by土方歳三)








「………と言うことなんです」

「なにそれ酷い!」

「……なぜお前がいる」

此処は風間カンパニーの社長室。
そして今ここにいるのは三人。

雪村千鶴と風間千景とそして……ライバル会社の社長、千姫だ。


「で、でも家のこととか全部そつなく完璧にこなしてくれてますし!」

「でも千鶴ちゃんに冷たいんでしょ?」

「…だからなぜお前たちはここで……」

「そんな…!冷たいってわけじゃ……帰ったらおいしいご飯作って待っててくれますし…御苦労って頭撫ででくれますし……」

「千鶴ちゃん…惚気?」

「いい加減にしろよ…お前ら…」

現在、仕事中の風間をよそに来客用のソファーでお茶をすする千姫と千鶴。
だが風間の言葉も聞こえないないらしく完全に無視されていた。

「惚気って…!///」

真っ赤になる千鶴にか〜わ〜い〜いwと抱きつく千姫。


「でも…意外だったわよね。あの人仕事一筋って感じだったのに」

「……確かにそうですよね」

奥さんが仕事命だったことはここにいる誰もが知っている。
その彼女が結婚を機に退職などと皆飛び上がらんばかり(病院に連れて行けと言われたほどだ)に驚いた。
その中でも一番驚いていたのは千鶴かも知れない。


と、そんな時に、


「………アイツが仕事を辞めた?」


もう勝手にしろと黙り込んでいた風間のつぶやきに二人が振り返った。

「風間…何か知ってるの?」

と言う、千姫の問いかけに少し考えるそぶりを見せてから話した。

「知っているも何も……アイツが仕事を辞めたという話が寝耳に水だ」

「…?言ってませんでしたか?」

確かに言ったと思うのだが……風間は結婚式には参加しなかったが、それなりに祝いの品などは貰っていたりする。
奥さんがなぜか嫌がるのだが。

「お前からは聞いた。…が、本気にはしていなかった。それに……」

そこで言葉を切った風間は珍しくためらいがちに言葉を続けた。

「あの組は実質アイツが頭だろう?アイツがいなければ何もできない荒くれどもだ。……だが今のところ前とさほど変わらん働きぶりだと聞いている」

風間の言い方はあんまりだったが、いまいち反論もできずに黙って聞いていた千鶴も、風間が何を言いたいか少しだがわかった気がした。

「……つまり」

「千鶴ちゃんに内緒でまだ仕事続けてるんじゃないか……ってこと?」



千姫のズバリな物言いに風間はただ、ああと頷いた。






「ただいま…」

結局あのあと衝撃で仕事にならず、千姫の計らいにより(上司の風間ではなく)早退してきた千鶴。
しかし……

「………歳三さんが…いない…」

やっぱり自分がいない間に……

別に悪いことではない…彼女は新選組をとても大切にしていた。
だから気になってしまうのは仕方のないことだし、自分に心配かけまいとのことなんだろう。

しかし……でも……

グルグルと頭をめぐる言葉。
彼女を理解しようとする自分。
彼女を責めようとする自分。

ごちゃごちゃになって……

「う…っ…」

涙がこぼれた。




「何泣いてんだよ…なんかあったか?」



唐突に後ろから声がした。



「歳三さん?」

「ああ。それにしても早かったな?どうしたんだ?」

熱でも出たか?とおでこに手を伸ばす彼女の手を千鶴は思わず掴んでしまった。

「…千鶴?」

「あ…あの……」

何と言えばいいかわからない。
聞きたい。聞けない。

「………はぁ…」

すると彼女はため息をついた。

「と、歳三さん?」

「お前は……ホント…俺がいないとだめだな」

そう苦笑してそっと千鶴を抱きしめた。

「ええ!?///」

「おいおい、夫婦なのにこれくらいで赤くなるなよ……」

「だっ…だって……」

「で?なにが不安なんだ?」

そう言って顔を覗き込む。

「………歳三さんは…その…新選組でお仕事してるって…」

「………ばれたか」

あらら。とでも言うように奥さんは軽く頭をかいた。

「ばれたかって……!」

「…だってしょうがねぇだろ?正直に言ったら反対するだろ、お前」

少し口をとがらせる様にすねているという顔をする彼女に、彼女に甘い千鶴は珍しく怒っていた。

「…………私が怒っているのはそんなことじゃないんです」

静かだが妙に迫力のある声に彼女は驚きを隠せなかった。
こんな声は初めて聞く。

「……もし…もし何かあったら…私は何も知らないまま、後悔するしかないんですよ?私だって…貴女を守りたいのに…」

「千鶴…」

「そりゃ、歳三さんの方がずっと強いのはわかってます!……でも…私は……」

「………千鶴…悪かった」

真剣な千鶴の言葉を聞き、ようやく彼の心配を理解し、まっすぐに謝罪を述べた。
彼が優しいことは知っていた。そんな彼を大事にするあまり踏みにじっていたのは自分だった。

「………謝らないでください。歳三さんは歳三さんで私に心配かけまいとしてくれたんでしょう?」

「千鶴……」

それでもまだ自分の意思をくみ取ってくれる夫にただ愛しさがあふれた。



ちなみに

「それにね……別に反対なんてしませんでしたよ」

「え…?」

「だって反対しても無駄でしょう?貴女は一度決めたことは何としてでもやりぬく。……そういうまっすぐな所に惹かれたんです」

「………お前ってやつは……」



「…ありがとよ…」



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長い…長い!!!!

いつの間にかシリアスになった…!なにゆえ?
にしても……千鶴はいい妻でもあり、いい夫にもなれる!!!(爆)
ちなみに土方さんが早く仕事に行かせたかったのは、朝から大事な会議があるんだけどお見送りはしたいのよと言う乙女心(爆)