これは、雪村千鶴の知らない彼等の戦いの物語………




水面下の戦い








「で、今日は誰が千鶴の横に座るんだ」

土方の言葉にその場にいた面々が顔を上げた。
時刻は夕飯前。食堂には件の少女以外が揃っていた。(局長は留守)

「たまには俺が……」

「新八さんは駄目。千鶴ちゃんがこれ以上痩せたらどうするの」

「お前、俺だって少しは遠慮ってものくらいは……」

「無理無理。ぜってー新ぱっつあんじゃ無理だって」

「んだと平助!」

食い意地の悪さを指摘する藤堂に掴みかかる永倉を原田が宥めていると静かに手を上げる者がいた。

「では今日は私が……」

「山南さんは駄目だ」

「なぜです?土方君」

「…………なんとなく」

その返答では納得出来ないであろうが、ぶっちゃけ変な物飲ませそうだからとは土方にも流石に言えなかった。

「じゃあ僕が座りたいな」

「えー!昨日も総司が座ってたじゃん!しかも飯中ずっとちょっかい掛けてたし!」

「総司の隣では千鶴も落ち着いて食えんだろう」

はい、はーい!と立候補する沖田に、藤堂が口を尖らせ斎藤が同意した。
それに対し、からかい易いのがいけないんだ。と勝手なことを言いう沖田。

「だったら今日は俺が座るかな」

俺なら飯を取る心配も、邪魔する心配もないだろ?そう言いながらちゃっかり千鶴の定位置の隣を陣取る原田。

「ずりい!!!」

どーけーよー!と、わめきながら退かそうとする藤堂に無駄だと笑う原田だったが、後ろ髪を引っ張られては流石に参った。

「痛ぇ!誰だよ、髪引っ張ってんのは!」

「んー?これ左之さんの髪だったの?犬の尻尾かと思った」

「白々しい嘘付いてんじゃねぇよ、総司!」


「たくっ……」

男どもの醜い争いにため息をついた土方は、ちゃっかりしっかり原田が座っていた逆の千鶴の隣に座っていた斎藤に千鶴を呼んでくるように言った。
……が、

「…………」

物凄く嫌そうな顔をされた。
………そんなにその席を取られるのが嫌か!
と、思ったが渋々席を立つ斎藤を黙って見送った。



……いつからだろう。
この屯所がこんなにも平和になったのは………

これでいいのか?
土方は少し頭を抱えた……が、彼が始めから座っていた席は千鶴の真正面で、案外一番いい席だったりするのは本人だけしか知らない。



そんなこんな戦いが行われていること全く知らない千鶴の足音が聞こえた。
その瞬間、藤堂と沖田は原田を退かすのをあきらめ、平助はもう片方の隣へ、沖田は仕方無いと少し離れた所に座った。……勿論土方の隣などではない。


「お待たせしました!」

斎藤と共に入ってきた千鶴は……手にお盆を持っていた。

「千鶴。何それ?」

「えっと……見た目はちょっと悪いですけど…私が作ったんです。皆さんに食べてもらおうと思って……お嫌いですか?」

そう言って見せたもの、それは………

「卵焼き?」

「す、すみません。もっと凝ったものを作ろうかと思ったんですが……」

屯所から出られないため、材料を買いに行くわけにも行かず、台所に残っていたもので作ろうとしたが元からおかずが少ないこの屯所。
使える材料が卵くらいだったのだ。

しかも……

「えっと……皆さん一切れずつで申し訳ないです……」

………一同、何とも言えない空気が漂った。が、

「千鶴が作ったのか。うまいじゃねぇか」

そこは女たらし…もとい、女の扱いはピカイチの原田がフォロー。
その言葉に次々と皆もほめた。

「えっと…お茶入れてきますね…!」

褒められて嬉しいのだろう。千鶴は顔を赤らめて走って行った。

ここで、食堂はまた静まり返った。
皆が見つめるのは卵焼き。

そして……


「誰が(千鶴ちゃんの手作りの)卵焼きの一番真ん中、いいとこを食べるか……だよね?」


沖田の妙に真剣なのに間の抜けた言葉により第二次千鶴大戦が勃発した………



山南「ここは年長者に譲るというのは」(実は皆がバカに真剣だから楽しんでいるだけな人)

土方「歳は関係ねぇ」(実は偉い順なんて提案をしようかどうか悩んでいる人)

原田「じゃ、背が高い順てーのは」(でなければエロい順)

沖田「殺しますよ?左之さん」(本気です)

永倉「まぁまぁ、落ちつけよ。そうだな。とりあえず全部俺が……」(天然で死にに行く人)

土沖藤原「あぁ!?」(皆マジです)

永倉「すんません」(土下座)



「あれ?なんで永倉さん土下座してるんですか?」

「へ?あ、いや別になんでもねぇよ……」

戻ってきた千鶴が見た光景はかなりおかしなもので、部屋に漂う空気も微妙なものだったがその原因が分からないのでスルー。
とりあえずお茶を配り、席に着いた。
さぁ食べましょう!と手を合わせ、箸を持ったが……何故か皆が食事を始めようとしない。

「どうしたんですか?」

首を傾げる千鶴に沖田が卵焼きの乗ったお皿を差出た。

「千鶴ちゃん、一番いいとこどーぞ。作ってくれたお礼にね?」

沖田どうした!なんだその大人の対応は!変なものでも食ったか!?←皆の心
そしてその言葉に千鶴はとまどった。

「私が食べると数が足りなくなりますから……」

そう言われて沖田は卵焼きの数を数えた。言われて見ればたしかに……

「俺はいらん」

その時、斎藤が一言そう言い食事を始めた。
黙々と食べる斎藤に一同(千鶴抜き)信じられないという顔をした。
……どんだけ卵焼きに執着があるのか。

「ホントにいいの?」

「かまわん」

「だって。千鶴ちゃん食べたちゃいなよ」

ヒョイと箸で一番大きくて柔らかそうな卵焼きを掴み、

「あーんv」

「沖田さん!?」

無理やり口に押し込んだ。



と、まぁその後は千鶴に気づかれない程度の争いにより卵焼きは分けられ、美味しく頂かれた。

藤堂「旨いよ!千鶴!」

原田「ああ。いい嫁さんになれるぜ」

土方「卵焼きごときで大げさな奴らだ…」(ホントです)

山南「私にも優しい味ですね」

沖田「やだな、山南さん。爺臭いですよ」

永倉「いやー、飯が何杯でも行けるな!」

絶賛の嵐に恐縮する千鶴を余所に沖田は意地の悪い顔で斎藤に近づいた。

「残念だったね。こんなにおいしいのに」

「………」

「あーあ。次はいつ食べられるか分からないのに。残念だなぁ。一君は」

「………」

ああ。やっぱり沖田は沖田だ。と、どこかホッとしている人、数人。

そんないつもの沖田に何を言われても無言で食事を進め、誰より先に食べ終わった斎藤は立ち上がり出て行こうとする。
それを面白くなさそうに見送る沖田だったが、唐突に斎藤は立ち止まり……爆弾を投下した。

「……千鶴。卵焼き、美味かったぞ」

「え、あ、はい!ありがとうございます!」




「え?」






「えっちょっと!いつ食べたの!」

「斎藤さんには試食してもらいましたけど……」


実は一番に食ってた。

唖然とする一同に食道を出る寸前、ニヤリと勝ち誇ったように笑ったのは気のせいか。



『あんの野郎……』



とりあえず次の戦いは明日の朝。




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1300キリ番 ユミ様、ありがとうございました!

大変遅くなって申し訳ありませんでした……
しかもスランプ中につきネタと落ちが思いつかんで……なんだかグダグダ……OTL

一応オール逆ハーで斉藤落ちの千鶴争奪戦ギャグになっているような気もしないでもない。(オイ)

それでは、こんな文でよければ貰ってやってくださいませ(汗)

本当にありがとうございました!