「千鶴が風邪をひいたらしい」
朝食の時間になっても来ない彼女の様子を見に行った斎藤の言葉で、騒動は幕をあげた。
「それで、千鶴の様子は!?」
「千鶴は部屋で寝ている。それと今山崎が松本先生を呼びに行っている」
まず、真っ先に反応したのは藤堂だった。
「……とうとう千鶴までひいちまったか…」
「皆が治った後に…、っていうのが千鶴ちゃんらしいって言えばそうだよね」
溜息混じりに額を押さえる土方と、苦笑いで呟く沖田。
実はここ最近の気温の変化で、この屯所内で風邪が大流行していたのだ。
そのために彼女は屯所内を走り回り、看病にあけくれていた。
その疲れが今になって来たのだろう。
「そんじゃ、松本先生が来るまで俺がそばにいてやるか。一人じゃ寂しいだろうしな」
そう言って立ち上がろうとする永倉を、原田が止めた。
「おいおい…一人で抜け駆けはよくねぇんじゃねぇか?」
「な、なんだよ左之!俺はただな……」
「そうですよ新八さん。看病なら僕がします」
「総司がやったら余計に悪くなりそうだよな…」
「それはどういう意味かな、平助君?」
突然始まった争いを無視して土方は斎藤に言った。
「……斎藤、松本先生が来るまでアイツのこと見ててやれ」
「御意」
その指示を聞いてすぐに広間を出て行ったところを見ると、斎藤も元からそのつもりだったようで。
「たく…揃いも揃って………」
未だに口論を続ける馬鹿達にもう一度溜息をついて、箸を取った。
………しかし、なんだかんだ言いながらも考えているのは……
「(後でなんか食べれそうなもんでも見繕ってくか…)」
結局、それだった。
看病しましょう〜斎藤〜
「千鶴……、調子はどうだ」
襖を開けて入ると……
「何をしている!」
千鶴は蒲団を片付けようとしていた。
「斎藤さん…?」
「熱があるんだ。寝ていろ」
「大丈夫ですよ」
そう言って笑う千鶴は、十人中十人が大丈夫じゃないだろ!とツッコミそうな顔色だ。
真っ赤な顔にうるんだ瞳。熱い息にフラフラした足取り。
「寝ていろ」
当然布団から出るなど言語道断だった。
「でも……」
「今、松本先生を呼んでいる。大人しくしていろ」
そういうと斎藤は有無を言わさず片付けられかけていた蒲団を敷きなおした。
「さっさと横になれ。でなければ無理矢理でも寝かせるが?」
「ね、寝ます!」
普段あまり感情をあらわにしない彼から、気迫を感じ慌てて従う。
しかし……
「ふぁ!?」
熱で覚束ない足取りだったため、急に足に力が入らなくなって倒れかけた。
「だから大人しくしていろと言っただろう」
倒れかけた千鶴を難なく抱きとめ、そして……
「さ、斎藤さん!?」
抱き上げた。
「じっとしていろ。あんたは妙なところで世話が焼ける」
呆れたようなセリフだがその顔は思いのほか優しげで、
「ほら、ちゃんと寝ていろ」
蒲団の上に下ろされた千鶴の顔はさっきよりもっと赤くなっていた。
看病しましょう〜沖田乱入〜
「何やってるの、一君」
ふとその声に目をやると、いつの間にか襖に寄りかかって部屋を覗いている沖田がいた。
「お、沖田さんいつから……」
「君と一君が抱き合ってたくらいかな」
「だ!?」
「勘違いをするな。俺は看病をしていただけだ」
「ふーん?」
二人の話を聞いてもニヤニヤと笑っている沖田だったが……目は笑っていない。
「……そろそろ松本先生が来るころだろう。見てくる」
沖田の態度に嫌なものを感じたが、下手に言い争っても病人である千鶴に負担をかけるだけだろう。
そう思い、斎藤は部屋を後にした。
だが、
「(さ、斎藤さーん!)」
千鶴にしてみれば、猛獣の檻に一人残されたようなものだった。
看病しましょう〜沖田〜
「で、千鶴ちゃん。調子はどうなの?」
「だ、大丈夫です」
「僕に嘘付くなんて…勇気あるね?」
ニコッと笑う沖田の背後には真っ黒な闇が見える。
そんな気がした千鶴は、慌てて起き上がって首を振った。
「ほ、本当に大丈夫なんです!風邪なんて……ぁ」
頭を振りすぎたせいかクラリと眩暈を起こした千鶴を沖田が支えた。
「はいはい。意地はってないで認めなさい。君は風邪をひいてるの。熱も結構あるじゃないか」
そう言って千鶴の額に自分の額を合わせる沖田。
「お、お…沖田さん!?」
「しっかり休んでしっかり治して、それから大丈夫っていいなよ。じゃないと僕も気兼ねなく君で遊べない」
ちょっと不貞腐れたような顔で沖田は言う。
君で…のあたりが彼らしいが。
「……ありがとうございます」
心配してくれていることがわかって、嬉しいくて千鶴はほほ笑んだ。
それを見て安心したように沖田も笑って……
「風邪が早く良くなるように僕が添い寝してあげようか?」
「え」
ニッコリとさも当然と言わんばかりに布団に入り込もうとする沖田。
だったが……
「何やってんだよ、総司!!」
「おいおい……」
看病しましょう〜原田&藤堂〜
「助かりました……」
「たく…アイツは目を離すとすぐあれだからな」
「総司の奴、千鶴が病人ってこと絶対忘れてるって!」
千鶴を沖田から救ったのは原田と藤堂だった。
彼等はすぐさま沖田を部屋から追い出し(一苦労)、漸く落ち着いたのだった。
「千鶴、安心して寝てろよな。俺が左之さんを見張ってるからよ」
「おいそりゃどういう意味だよ」
「左之さんは総司以上に危ないって話ー」
「弱った女に手を出すかよ」
「え〜どうかな?薬だって言いながら口移しとか普通にやりそうなんだけど」
「お前…俺を何だと思ってんだ」
ギャイギャイと喧嘩を始める二人。
「(ああ…眠れない…)」
その中で千鶴が眠れるはずもなく、しかも内容が内容なので気にもなる。
「何って……左之さんはなんかエロいんだよなぁ…」
「お前がおこちゃますぎるんだよ」
「ガキ扱いすんな!俺だって成人してんだぞ?」
「だったらもう少し大人の貫禄ってもんを持ったらどうだ?」
「大人の貫録……?たとえば?」
「たとえば……そうだな。『据え膳食わねば男の恥』」
「やっぱそっちか!このエロ担当!!」
もはや千鶴のことなどすっかり忘れてるんじゃないかと言う二人に対して、なんと言っていいものかもわからず寝たふりをする千鶴。
それにしてももう少し気遣ってほしいものだ。
「だからお前はガキなんだって」
「そんな汚れた大人になんか、なりたくないってーの!」
そんな時だった。
「お前等、何病人の前で騒いでやがる!」
看病しましょう〜土方〜
「たく……あいつ等は看病一つまともにできねぇのか」
「あはは……」
土方に一活された原田と藤堂は申し訳なさそうな顔で部屋を出て行った。
そして、山崎が読んできた松本先生の診察を無事に受け薬も飲み、あとは安静にしていろとのことだった。
「土方さん……私、ちゃんと大人しく寝ていますから……」
診察中は流石に部屋から出ていたものの、その後もずっと付いていてくれた土方に千鶴は感謝していた。
が、彼が忙しいことも知っているため、これ以上の迷惑はかけられないと思ったのだ。
「だったらさっさと寝ろ」
それだけ言うと壁を背に何かを読み始める土方。
どうやら部屋から出て行く気はないらしい。
「(どうしよう……)」
寝てもいいのだろうか?いや、いいんだろうが……
迷惑をかけている手前、のんびり寝ていていいんだろうかなどと、いらぬ気をまわしてしまう。
何より、あの土方に看病されながら眠るなんて芸当がこの屯所内の誰が出来るだろうか?(A,近藤)
「眠れねぇのか」
「え…っ」
土方も千鶴の様子が気になっていたらしく、開いた本はほとんど進んでいなかった。
そんな本を閉じて土方は千鶴に近寄り、額の手ぬぐいを代えてやる。
「ありがとうございます」
「さっさと治せ。でないと奴らが余計に煩いからな」
そう苦笑して千鶴の頭を撫でた。
「(あ…)」
それは不器用ながら優しくて。
「(気持ちいい……)」
千鶴はそのまま目を閉じ、眠りに落ちた。
「千鶴ちゃんの調子はどうでした?」
「今眠った」
「俺が怒られたのは左之さんの所為だかんな!」
「お前が変なこと言いだすからだろうが」
「副長、この後は誰が?」
「源さんに頼んでおいた。その辺が一番落ち着くだろうからな」
「えー。僕が看病しますって」
「あんたに看病されたら治るものも治らん」
「なんで皆してそう言うこと言うかな」
「日ごろの行いだ」
おまけ
「よう、源さんが看病してんのか?」
「ああ。なんでも他の連中じゃおちおち眠れないらしいからね」
「なるほどな。総司とかに任したらいつまでも治りゃしねぇ」
「それで永倉君。雪村君に何かようなのかい?」
「ああ、忘れるところだったぜ。ほれ見舞い」
「リンゴか。気がきくじゃないか」
「今日見回りの当番でよ。こんな時間になっちまった」
「雪村君が起きていたらよかったんだけどねぇ」
「いいんだって。熱も下がってきたみたいだしな。んじゃ渡しといてくれよな」
「ああ。もちろんだよ」
「………雪村君は本当に愛されてるねぇ」
「それにしたって皆おんなじ物を持ってこなくてもいいだろうに……」
※その後、リンゴは皆で美味しく頂きました。
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800番のキリ番リク、千鶴ちゃんが皆とワイワイやってる小説です
仁和様、リクありがとうございました!
ご希望に添えたでしょうか……?
若干、斎藤、沖田、土方贔屓な気がしてならない……(平ちゃんと左之さんの扱いが…)
源さん初めて書きましたよ。案外書きやすい人だな。
それでは仁和様、本当にありがとうございました!
(仁和様のみお持ち帰りOKです)
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