祝バレンタイン&ホワイトデー企画!
貴女は誰にチョコをあげる?
第2位斎藤一
「千鶴、少しいいか?」
襖の向こうから聞こえた声に私の心臓は大きく鳴った。
「どうかしたんですか?斎藤さん」
私の部屋に来るなんて珍しい。と言うか斎藤さんから話しかけてくれるだけでもめったにない。
私は嬉しいやら緊張するやらで内心ドキドキだ。
「あんたに渡したいものがある」
そう言って私が敷いた座布団に座る斎藤さん。
何だろう?改まって……
「雪村……今日は何の日か知っているか?」
「今日ですか?」
何かあっただろうか?
思い出そうとしても何も浮かばない。
「今日はホワイトデーと言う日らしい」
「ほわいとでー?」
聞いたことない言葉だ。
でも……何処かで似た言葉を聞いた気もする。
「先月、バレンタインデーと言う物があったのを覚えているか?」
「あ!」
それだ!
正確には『でー』しかあってないけど、似たような外国の言葉だ。
「それの礼をする日らしい」
「へぇ……………え?」
ばれんたいんの礼…礼……礼?
「あんた、俺にチョコをくれただろう?」
「へっ…ふぇえええ!?」
思わず驚きに立ち上がってしまった。
「……やはり俺に宛てたものでは無かったか」
「へ、い、いえあれは斎藤さんに……」
斎藤さんに宛てたものですと言いかけて口を押さえる。
だけどさすがに遅い。
「俺に?何故……」
「う…」
聞かないでほしい。と言うか今になってその話題ですか!?
完全にあの話は流されたと思っていた。
好きな人にあげれば想いが通じるとかいう『ちょこれーと』を近藤さんに貰ったはいいが、どうしようか悩みまくった結果、ばれんたいんに斎藤さんの部屋の前に置き逃げしてしまったのだ。
勿論、まぁ所謂そう言う意味合いも少なからずあったわけで……でもあれから一ヶ月、何の反応もなく変わらない斎藤さんに安心しきっていたのに……
若干寂しさはあったけれど……
「……そ、それでそのほわいとでーって何をするんですか!!!」
強制話題変更。
「……だから礼をする日だ」
「礼なんて…別にあれは……」
大した意味はない。冗談だ。
そう言ってしまえばきっと今までどうりに過ごせるのに……なぜ言えないんだろう…
そんな私の葛藤を知ってか知らずか斎藤さんは袂から何かを取り出した。
そしてそれを……
「これをやる」
「え?」
思わず出した手に乗せられたのは……髪結いの紐だった。
赤い、今付けているものとさほど変わらない。けれど少し明るめで編み方が違う。
「……気に入らないか?」
「い、いえ!ありがとうございます」
驚きで頭が今一回らない。
すると、斎藤さんが手を伸ばし……私の髪に触れた。
「……結びなおしても構わないか…?」
「へ?」
突然のことで間抜けな声が口から出てしまうが斎藤さんは構わず…と言うか返事を待たずに私の髪を解いた。
「…綺麗な髪だな」
「…っ///」
いつの間にか横にいた彼は私の前にいて、凄く近くで向き合っていた。
そして……なぜか前から私の髪を結び始める。
「さ、斎藤さん!?」
「動くな」
ふああああ!!近い近い近い!!!!!
それこそ吐息がかかりそうなほどの近さ。でも斎藤さんは髪を結うのに気を取られているのか全然気にしていない。
天然ですね?天然なんですね!?
暫くして…
「できた」
上手くできたのか僅かに微笑む斎藤さん。
私は……
「あ、ありがとうございます……」
自分でもわかるほど顔が赤くなっていた。
「……似合うな」
不意に私から視線もろとも顔を逸らして斎藤さんは言った。
嬉しい。でもそんなに変わるものだろうか?
そう思って髪に手をやると……いつもと違う髪型なのに気がついた。
「あ、あれ?」
いつもは後ろで高く結っているのに今は…耳の下辺りで緩く結ばれていた。
この髪型は……
「気に入らんか?」
「……っ!そ、そんなことは!!///」
そんなことはないんですけれどもね!!
これは俗に言う……お揃い…
うわぁぁあ///
「どうした?顔が赤いが…」
「な、何でもありません!!」
ブンブンと頭を振ると少し驚いたようにそうか?と言う。
なんなんだこの人は……
「もう…どうにでもして……」
「…?何か言ったか?」
「いえ…別に……」
男の人にこんなこと言ってはいけないだろうけど……可愛すぎますよ、斎藤さん……
「お茶入れてきますね」
そう言って私は部屋を出た。
髪型はそのまま。折角だから今日一日はこれでいよう。
いっそこのまま解きたくない気持ちはあるけれど……
「夢かも…」
あまりに幸せすぎる展開にほうっと溜息をついてしまう。
夢なら覚めないでと思うが、夢でないならないでこの後どうなるのかが気になる。
斎藤さんの行動に深い意味はないだろうけど……
「ただのお礼…だもんね…」
お礼。ちょこのお礼。
わかってはいるし、まさかそんなもの貰えるとは思ってなかったからすごく嬉しい。
でも……
「……好き…なんだけどな」
だからちょこを斎藤さんに渡したのだ。
こんなことならさっき話をそらさずに言えばよかったかもしれない。
でも言ったところでどうなったのか。
「両想い……無いなぁ」
浮かんだ言葉は自分で否定した。
さっきのことを思い出してもそうだ。焦っていたのは私だけ。
「はぁ……」
最後に溜息をついた時、ちょうどお茶が淹れ終わった。
「お待たせしました」
そっと自分の部屋の襖を開けて…驚いてお茶を落としそうになった。
「さ、斎藤さん?」
さっきと同じ位置に座っている斎藤さん。しかし…さっきと違う点が壁に寄りかかっているということと……
「寝てる…?」
静かに目を閉じているということだった。
私は物音を立てないようそっと近づいた。でもいつもなら気配で気付くはず。
そう思っていたのに私が近づいても斎藤さんは目を開けなかった。
「………」
すう…と静かな寝息。
だ、駄目だ。見ちゃいけないのに見とれてしまう。
今起きてしまったらどうするんだと自分に言い聞かせようとするけれど、目がどうしても斎藤さんの寝顔を観察してしまう。
だって可愛いんですよ!?
綺麗なんですよ!?
もう二度と見れないかもしれないんですよ!?
誰にか分からない言い訳を心の中で叫んでいた。
「お疲れ…なんですか?」
ようやく落ち着いてきた。
それにしても目を覚まさない。いつもだと考えられない。やっぱり夢かな……
目を覚まさないことをいいことに、そっと横に座った。
他の隊士たちに比べ小柄だけど、やっぱり男の人で……
性格はクールに見えてわりと可愛い人で……
まつ毛長いなぁ……
「好きだなぁ……」
ポツリと本音が零れた。次の瞬間、斎藤さんが突然顔を押さえた。
「え?」
何が起こったのかよく分からない。
眠ってたはずじゃ……
「さ、斎藤さん?」
どうかしたのかと顔を覗き込もうとすれば、背を向けられた。
「斎藤さん?」
「あんたは……」
ようやく聞けた声。眠っていたからか少し掠れたような声だったけど……
「何故、いつも俺の想像を飛び越える……」
そう言って少しこちらを見た彼の目もとは…赤かった。
「…え?」
何の事だろう?そう思って斎藤さんがおかしくなる前を思い出す。
斎藤さんが寝てて…それで……あ。
「さ、ささささささ斎藤さん、まさか聞いて…!?」
そうだ。さっき私は口に出してしまったんだ……好きだと。
どどどどどどうしよう!?
「あんたには……千鶴には敵わないな…」
真っ赤になってワタワタと慌てる私に斎藤さんは苦笑した。
でもその顔はまだ赤いままで……その顔を隠すように今度は私の目を塞がれた。
……斎藤さんに抱きしめられるという形で……
「さ、」
「ほんとに…敵わない……」
ぎゅっと抱きしめられて……そっと耳元で囁かれた言葉は……
「俺も千鶴が好きだ」
その言葉で私は限界だったらしく……
「千鶴!?」
気を失うという失態を犯した……
その後私が目を覚ますまで傍にいてくれた斎藤さんが、そっとくれた口付け。
実はその時、もう目覚めていたことは……誰にも秘密。