祝バレンタイン&ホワイトデー企画!
貴女は誰にチョコをあげる?


第1位沖田総司



「ねぇ……今日暇だよね?」

突然沖田さんに声をかけられて、掃除をしていた手を止めた。

「は、はい」

「じゃあ…僕と出かけようよ」

ね?っと笑う沖田さん。
でも……

「沖田さん……お仕事は?」

「大丈夫。今日の為に珍しく頑張ったんだよ。だから今日は非番」

それじゃ、準備出来たら玄関に来てね。それだけ言って機嫌よさそうに去っていく彼の後姿をポケっと見つめていたが……


「沖田さんと……お出かけ…?」

しかも二人で。

「ど、ど、ど、どうしよう!?」

一気に顔に上がってきた熱に頬を押さえれば熱くって……
嬉しいやら、恥ずかしいやら、緊張するやらでどうにかなってしまいそう。

「ど、どうしよう……」

っでもやっぱり嬉しくて……顔がニヤけるのを押さえられなかった。






「え…本当にお仕事終わってるんですか?」

「ああ…珍しいことにな」

とりあえず部屋に帰ろうとしたら、偶然向こうから山崎さんが歩いてくるのが見えて、思わず聞いてしまったこと。
沖田さんの言葉を信じないわけじゃないけど……信じきるのも危ないと身をもって知っているからだ。

「どうも一ヶ月ほどから土方さんにこの日は非番にして欲しいと願っていたらしい。しかもここ三日程は命令に何一つ不満を漏らすことなく任務に就いていたからな。……はっきり言って気色が悪かった」

「や、山崎さん……」

確かに山崎さんの気持ちもわからなくはないけれど……
あの沖田さんが勤勉に…それこそ斎藤さんのように真面目に任務についてる所なんて想像もできないけれど……
それほど今日は大事な日なのだろうか?

「それで…今日雪村君は沖田さんと?」

「え…あ、はい。出かけようって言われて……って言いましたっけ?」

「沖田さんが土方さんに君を一日連れ出す許可を取っていたのを聞いた」

「ええ!?」

そんなことまでしていたなんて。
しかもそれも一ヶ月ほどからだと山崎さんが教えてくれて……

「な、なんなんでしょう?沖田さんがそんなに今日にこだわる訳って…」

「さぁな。俺にはあの人の考えていることはさっぱりだ」

と言うか分かりたくもない。と小声でボソリと呟く山崎さんに苦笑して私は彼と別れ、部屋に戻った。


「うーん……」

鏡を見ながら呻く。
用意と言われたけど、男装の身であるためお洒落のしようもないし……
でも……

「沖田さんにとって…今日は特別な日……何だろうな」

山崎さんの話からすれば、あの沖田さんがそこまでするのだ。よっぽどのことなんだろう。
そんな日に、私をそばに置いてくれる……

「私に関係のあることなのかな?それとも…ただの気まぐれ?」

今日は何の日だっけ?全然覚えがない。
でも気まぐれにしては準備がいい。私を連れ出す許可なんて…土方さんが簡単に出すはず無いし……

「はぁ……」

なんにしても、折角沖田さんと二人で出かけられるのだ。
せめて少しくらい女の子らしくしたいな。

でも……

「…うーん……」


何処を変えればいいのかさっぱりだ。






「お待たせしました!」

「じゃ、行こうか」

玄関に行くと沖田さんは暇そうに欠伸をしていたけれど、私を見ると笑って歩きだした。
結局、いつもとほとんど変わらずじまいで、しかも悩んでいたせいで結構待たせてしまったと思う。
なのに文句一つ言わない。いつもなら絶対何か言ってきたりされたりするのに……

「どうしたの?千鶴ちゃん?」

「い、いえ。なんでもありません!」

そう?と首を傾げるも、通りに出てどっちの道に行こうかなっと考えている沖田さんはいつもよりも楽しそうで。
そんな彼に不思議に思いながらも、私も楽しくなってくる。

「それで、何処に行くんですか?」

「うーん…決めてない」

こっちにしようと歩き出す沖田さんに着いて行きながら、これは聞いてもいいかな?と思い問うた。
けれど帰って来たのは予想外の答え。

「え?折角一か月も前から取ってたお休みなのに…?」

「……なんで君が知ってるのかな?」

さっきまで機嫌よさげだったのに、急に不機嫌になる沖田さん。
でも……

「まぁいいよ。今日は僕、すごく機嫌がいいからさ」

そう言ってまたニッコリと笑って……

「あ、向こうに美味しい団子屋があるんだよ。千鶴ちゃん知ってる?」

「え…!?」

沖田さんは私の手を握って歩きだした。

「お、沖田さん!?」

「僕はみたらしにしようかな。君は何が好き?」

振り返った沖田さんは……思わず見とれてしまうような優しい笑顔だった……





結局、

「ふぅ…今日は夕飯いらないかもね……」

「食べすぎましたね……流石に…」

今日一日、沖田さんと私は甘味屋を梯子しまくったり、いろんなお店をひやかしたり……
その間中ずっと沖田さんはご機嫌だった。

「もう夕方か……土方さんに夕飯までには帰って来いって言われてるんだよ」

僕等は子供かって。そう言ってむくれる沖田さん。

「心配してくれてるんですよ」

なんだかんだ言いながら、私や沖田さんを心配してくれる土方さん。
……そういえば……結局今日は何の日だったんだろう?

「あの……沖田さん、聞いてもいいですか?」

「何?」

まだブツブツと土方さんの愚痴を言っていた沖田さんが私を見た。

「今日は…その、どうして誘ってくれたんですか?」

一か月も前から計画してまで……何があったんだろう?
今日一日を振り返っても、そのことに思い当たるヒントはなかった。

「……うーん…まぁ覚えてはないと思ってたけどね。て言うか知らないのかな?」

私に聞いているようで、独り言のような言葉にどうにも要領を得ない。

「私に関係することなんですか?」

「関係あると言えばあるかな。僕は嬉しかったし」

聞けば聞くほど分からない。
何か沖田さんが喜ぶようなことをしたっけ?
必死で考え込んでいると、

「ねぇ…ホワイトデーって知ってる?」

耳慣れない言葉が彼の口から出た。

「ほわいとでー……ですか?」

「うん。まぁ知らないだろうけど……最近似たような言葉覚えなかった?」

似たような言葉……

「最大のヒントは……一ヶ月前…かな」

一ヶ月前……



「……ばれいんたいんでー!」

「うん。バレンタインね」

おしいなぁと笑う沖田さんに恥ずかしくて俯く。

「そ、そのばれんたいんが…どう関係あるんですか……」

「実はね。今日はそのお返しをする日何だってさ」

「お返し?」

「そう。チョコのお返し」

………あ。
此処まで来て漸く思い出した。
一ヶ月前のばれんたいん。
悩みに悩んで……沖田さんの部屋の前に置いて逃げたあの日……

つまり……

「え、あ…えええ!?」

「あはは。そこまで驚かなくても」

「だっ…て……」

あの日、近藤さんにもらった渡来品のお菓子。
そのお菓子は…好きな人にあげると想いが通じるとかいうものだった。
そしてそれはなぜか皆に知られてしまって……

「……っ…」

勿論そのことは沖田さんも知っているはず。
だけどあの後、ちょこのことには全く触れてはこなかったから……

「何?僕が千鶴ちゃんからの贈り物を無視すると思ってた?」

「そ、そういうわけじゃ……」

無いけれども……

「僕もね、お礼を考えたんだけどいい案が浮かばなくて。とりあえずこの日を知ってすぐに今日休みにしてもらえるように頼んどいたんだ」

一ヶ月、今日の予定を考えてたけど面倒になって当日に決めればいいやってことになったんだよ。
そう言って笑う沖田さん。

「で、結局大したことはできなかったけど……どうだった?」

いつも以上に優しい目で問いかけられて、

「……沖田さん…」

彼の気持ちが凄く嬉しかった。


「楽しかったです……ありがとうございました」

「喜んでもらえてよかったです」

妙にかしこまって言う彼に思わず笑えば、笑い返してくれる。
なんだろう。すごく幸せ……

「それじゃ、帰ろうか」

「はい!」

私は…差し出された手を迷わず取った。
あったかい手を握っれば握り返してくれる。

そして私達はそのまま屯所へと帰って行った。




「ところで千鶴ちゃん」

あと少しで着く…いや、もう目の前と言う時に沖田さんが立ち止まった。

「なんですか?」

不思議に思って沖田さんの顔をみると……今日はずっと隠れていたニヤリとした笑み。
いつもの悪戯を仕掛けてくるときのあの笑みだ……!

「お、沖田さん…?」

完全に油断していた私。
そして……

「あのチョコって好きな人に渡すものなんだって知ってて僕にくれたんだよね?」

「…っ!」

今になってその話題を吹っ掛けられた。

「まさか知らないで……なんて言わないよね?大体そうだと思ったから僕もこんな苦労して今日非番にしてもらったんだし?」

な、なんだろう……聞かれてるのに答える隙がない。

「それにさ、僕がこれだけのことをしたんだから僕の返事ももうわかったよね?」

「え…え?」

つらつら並べられる言葉を理解するより早く、沖田さんが動いた。
繋いでいた手を引っ張られ……抱きしめられる。

「お、沖…///」

「……ねぇ。あんなのものに頼らないで君の言葉で聞かせてよ。君の…気持ちをさ」

沖田さんの胸に押し付けられているせいで、顔を見ることができない。
でも……静かな言葉がさっきまでのからかいを含んではいなくて……

「じゃないと僕も言葉にしてあげないよ。それとこんなことも今日限りだ」

もう一緒にお団子食べられないね。そう言いながら私の頭を撫でる沖田さん。

「……言葉にすれば……また…連れて行ってもらえますか…?」

恥ずかしい。でも……次が無いなんてそんなの嫌だ。

「君さ、そんなに甘い物食べたいの?」

クスクス笑う彼にムッとして無理やり顔をあげた。

「私は…沖田さんと一緒にいたいんです!」

「……うん。僕もだよ」

まただ。朝と同じ優しい笑顔。
ドキドキして…なぜか泣きそうになる。

「だから…言ってよ。君が先に……ね?」

辺りがどんどん暗くなってくる。
だからだろうか。もう私には沖田さんしか見えなくて……

「……貴方が…沖田さんが…好きです」

「僕も千鶴が好きだよ」

嬉しそうに笑った沖田さんの顔は……近づきすぎてすぐに見えなくなった。




「さて、帰ろうか」

「………はい」

朝以上に機嫌のよい沖田さんと、きっと夕日より真っ赤な私。

この日を私は絶対に……忘れない。


「千鶴ちゃん、これからもよろしくね」