〜ひな祭り小説5≪原田≫〜
「さて、何処に行きたいんだ?お姫さん?」
「は、原田さん!?」
ニッと笑って私に手を差し出す原田さん。
どうして貴方はいつもそんな感じなんでしょう……
「どこでも言えよ?甘いもんか?」
「は、はい……」
原田さんは日頃から私を女の子扱いしてくれる。
でも今日は……いつもよりすごい気がする…(当社比)
「でもやっぱ女はすげーな。格好一つで別人になっちまう」
「そんな……」
ずっとこの調子なのだ。可愛いとか似合ってるとか。
嬉しいけど……嬉しいんだけど……
「疲れてないか?」
ああ……やっぱりこの人は…
「女の子の扱い、慣れてますよね……」
「え」
………しまった!!
「い、いえなんでもないんです!」
「千鶴……そんなこと考えてたのか?」
思わず口から出てしまっていた本音。
「ち、ちが……」
「俺は千鶴だから言ってるんだぜ?」
「原田さん……」
「いつもの千鶴も可愛いが、今日はとりわけってな。なんたって今日は女の子の祭りじゃねぇか」
「女の子のお祭り…」
「そうそう。女の子は世界の宝だろ」
「…………」
あの……原田さん。
それだと……
「それなら誰でもいいんじゃないですか?」
「千鶴?」
「女の子ならいっぱいいます。私じゃなくてもいいじゃないですか!」
こんなこと言っても仕方無いのに……
でも…誰でもいい…そんな存在としてそばにいたいわけじゃない。
「私は……そりゃいつもは男装してますけど…今日だけ特別に着物を着せてもらってますけど……今日だけ特別なんて、しかも誰でもいいなんて…」
「おい、待てよ。千鶴…誰が、誰でもいいなんて言った?」
「だって…」
「そりゃ男は女を守るもんだし、こんなことお前に言うのもなんだが俺は女は好きだ。んでもよ……特別はまた別だろ?」
困ったように考えながら言葉を紡ぐ原田さん。
いつもの余裕の表情はない。
「俺は、今日って言う日をお前にとって特別な日にしてやりたい。女の子の祭りなんだ。日頃我慢してることとか晴らしてやりてぇと思うわけだ」
「………」
「あー…つまり……」
ポスっと頭に手が乗せられる。
「お前だから何かしてやりてぇ。んでお前だからお・れ・が、何かしてやりてぇと思う」
「原田さん……」
「わかったら…ほら。なんか我が儘言ってみろよ。今日は俺がなんでも聞いてやるから」
少し照れくさそうに笑う原田さんは…なんだか可愛くて、嬉しくて……
「……ホントですか?」
「おう。男に二言はねぇ」
涙が出そうになった。
「ならお願いがあります」
「どんとこい」
「来年も…再来年も……ずっとお祝いしてくれますか?」
そう言うと驚いたように目を見開き、それは我が儘じゃないだろと笑う原田さん。
でもきっと、これ以上に我が儘なことはないんです。
この先も…ずっと貴方の特別でいたいから……
「まぁいいけどな。そのかわり忘れるなよ?嫌だって言ってもずっと祝い続けてやるからな?」
「だから……覚悟しとけよ?」
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