〜ひな祭り小説3≪斎藤≫〜



「桃でも見に行くか?」

その言葉に私は大きくうなずいた。



「綺麗ですね……」

「ああ」

咲き誇る桃の花。そして……

「人も多いですね」

「ああ」

お花見をする人たちでにぎわっていた。
今日はひな祭りだ。可愛い着物を着た女の子が嬉しそうに笑っている。
家族もしくは……恋人と。

私達はどう見られているのかな?
やっぱり気になる。


「斎藤さん……あの、」

ふと声を書けると斎藤さんは少し眉間にしわを寄せて花を見ていた。
花が嫌い……という話は聞かないのだけれど……

「斎藤さん?」

「…なんだ」

「気分でも悪いんですか?」

「普通だ」

そう言うが、口数もいつもより少ない。
なぜ?

原因は何だろうと周りを見回し……ようやく思いついた。

「斎藤さん!あっちに行ってみませんか?」

「あっち…?」

私が斎藤さんを連れて行ったのは人気のない小高い丘の上。
そのには桃は咲いてない。

「桃はもういいのか?」

「ここからでも見えますよ。ほら」

遠目だけど確かに並ぶ美しい桃色。

「……そうだな」

そっと顔を覗けば眉間に皺はなく、優しげな眼差しで眼下に広がる景色を眺めていた。
やっぱり……

「斎藤さん、無理はしないでくださいね?」

「…?何の話だ?」

「私は斎藤さんと一緒に居られるだけで十分なんです」

そうだ。桃の花もきれいだし、一緒に見られるのはホントに嬉しい。
でも……斎藤さんが辛いのは嫌だから。

「………」

「でも……今日は連れてきてくれてありがとうございました」

私にとって一緒に居られることが何よりの幸せだから……

「……千鶴、何を気にしているかは知らんが…俺は別に無理などしていない」

「でも……斎藤さん人混みが駄目だったんじゃ…?」


「………俺はただ、あんたのその姿を他の奴が見るのが気に障っただけだ」


サラリと言われたその言葉に、私の顔は今きっと桃の花より色づいてしまった……









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