〜ひな祭り小説2≪沖田≫〜




「沖田さん?」

「ちょっと待ってて」

そう言って沖田さんは私を残してお店に入って行った。

「お煎餅?」



戻ってきた沖田さんは休憩しようと河原の土手に腰かけた。

「千鶴ちゃんは……はい」

広げられた風呂敷。

「あ、ありがとうございます」

意外な心配りにびっくりした。

「そんなに驚かないでくれるかな?僕だってこれくらいの甲斐性はあるんだけど」

「へっ?す、すみません!」

「ま、いいけどね。それよりこれ食べない?」

そう言って彼が差し出したのは……あられだった。

「ひなあられだよ。折角のひな祭りだしね」

「ありがとうございます」

さっき買ってたのはこれだったんだ……と差し出されたあられを一つ貰おうとすると、
ヒョイっとかわされた。

「ただじゃあげないよ。そうだな……一個につき一回何でも言うことを聞くって言うならあげてもいい」

ニヤニヤと楽しそうに笑う沖田さん。
完全に何か企んでいる。間違い無い。

「えっと……」

どうしよう……ぶっちゃけそこまでしてあられが食べたいわけでもない。
でも、私のために買ってきてくれたんなら……

「……別に食べなくてもいいよ?そのかわり来年は一緒に過ごさないから」

「ええ!?」

それはいやだ。
今年は沖田さんと過ごせて嬉しくて仕方無かったのに……
なんでそんなこと言うんだろ……

「………」

思わず言葉を無くしてしまう。
なんだかもう泣きそうだ。
すると……

「………千鶴ちゃんほら、あーん」

「え…?」

突然沖田さんがあられをつまんで私の口に押し込んだ。

「ンゥ…?」

「はい、次」

そして次から次へとあられを放り込んでいく。

「お、おひたはん!?」

「ほらもっと食べて」

「む、むひでふ!」

「大丈夫、大丈夫」

「おひたはんー!?」


「はい。終了」

「はぁはぁ……お、沖田さん……何がしたかったんですか…」

「ん?何っていっぱい食べさして、いっぱい願いを叶えて貰おうかなって」

「そ、そんなに何を……」


「まずは…来年も僕とこの日を過ごすこと」

「え…?」

「次は、再来年も僕と過ごすこと」

「お、沖田さん?」

「その次もその次も、君が食べた分全部」




「ちゃんと叶えてね?」

「………勿論です」





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