※土方ENDのその後。
※死ネタ

以上を踏まえた上でお願いします。



春雨








「歳三さん!見てください!!」

「ん…?ああ、梅か……」

季節はまだ春には早く、しかしその春はもうじきやってくる。
そんな報せのように梅の花が美しく咲いていた。

「昨日は咲いてなかったのに……」

「まだ二月だって言うのにな」

ここは北端の地。梅が咲くのはまだ先のはず。
そう言う歳三さんに私はその手を取った。

「いいじゃないですか。……もうじき春がやってくるんです」

ここに来てもうすぐ一年。
飛ぶように過ぎて行った気もするし、今までと比べればのんびりとできていたような気もする。

新選組が無くなり、風間さんと決着をつけた私達だったけれど……やるべきことはたくさんあった。


だけど……幸せだった。


「歳三さん…覚えてますか?去年、ここで桜を見たときに約束したこと」

「………ああ」

全てが終わり二人になった後、私達はあの桜の下でただ桜を見上げていた。

散りゆく桜。
儚く散りゆく花弁……。

歳三さんが何を思ったかは分からないけれど、私はただ恐ろしかった。
共にいられる時が少ないこと。それはまるで一瞬の美しさの桜のよう。

幸せなのに…不安が…失うことの恐ろしさが…私は怖かった。

そんな時、彼は今のように私の手を取って言ってくれた。


『来年も……またお前と見れるといいな』


その言葉に私は、


『見れると…じゃないです。見に来ましょう?』


そう言うと彼は苦笑した。きっと私が泣きそう…いや泣いていたから。
だから彼は頷いて、


『ああ。約束する』


そう言ってくれた。





「あ、歳三さん、あの木ですよ!」

私は歳三さんの手を引いて丘をのぼる。
今日は天気がいいから二人でお散歩。
珍しく歳三さんのお誘いであの桜の木のを見に行こうということになったのだ。

「……まだ桜は咲いてねぇな」

「そりゃまだ二月ですから」

梅が咲き始めた時期にまだ桜はないだろう。特にこの地方では。

でも蕾はあるかもしれない。
そう思って私は歳三さんの手を離して桜に近づいた。

「うーん…まだ蕾もないですね」


その時だった。


「…千鶴」


まるで春一番を思わせるような突風が吹いて思わず目を閉じた。


「ふぁ……って…あれ?歳三さん?」


呼びましたか?と振り向いた先に……彼はいなかった。


「え?歳三さん?」


辺りを見回すがどこにもいない。
ここは丘の上でかなり遠くまで見渡せる。

なのに、なのに……


「歳三さん!?」


何処にも彼はいない。


まるで……


「……歳三さん?何の…冗談ですか?」


まるで………


「ねぇ……出て来て下さい……」


まるで……


「お願い…ですから……」




呆然と視線を落とすとそこには見慣れた布。
それは見間違えることもない。



「と…」


それ以上の言葉は出なかった。


ただその着物を拾い上げる。


まだ温かい。


私を呼ぶ声はまだこの耳に残ってる。


なのに、


なのに、



彼はいない



「うっ…あ…」



彼は

   いない




「うわぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!」








この一年、この日を何度思っただろうか?

何度夢に見て飛び起きただろうか?

その度に私を撫でてくれたあの手は、あの声は、

あの人は………


「嘘…嘘…こんな…」


約束したじゃないですか

桜見るって


「嘘…つき……」


一緒に桜見るって

春はまだ……遠いのに


「なんで……」




まるで夢のように消えてしまった。

初めから存在などしていなかったように。

あなたは消えてしまったの?





「千鶴」



……ああ、これも夢だったんだ。
歳三さん……お願い、早くこの夢から…この悪夢から……私を起こして。



「…千鶴」


彼の呼ぶ声が聞こえる。
私を起こす声が聞こえる。


「歳三さん……」


私は埋めていた着物から顔をあげた。



「っ……」



そこには誰も……いなかった。



「どうして…?」

どうして起こしてくれないんですか?

「歳三さん…こんな夢…嫌です…」


悲しすぎます。

涙が……止まらないんです。




『千鶴……約束してやる。絶対に桜をお前と見に来る。だから……お前も約束しろ』



ふいにまた風が吹いた。
さっきほどではないにしろ、強い風が。

その瞬間、ほんの一瞬、

「歳三さん…?」


満開の桜の木と……その下に彼を見た



『俺がもし…死んだ時はちゃんと受け入れろ。んでもって泣くな』



「歳三…さん…歳三さん!!!」



『俺は……俺が死んだとお前が泣いて暮らすのなんて見たくねぇ』



「歳三さん!!!!!!!!!!!!!!」



『俺は…お前の笑ってる顔に…惚れたんだからよ』




「おいて…おいて…行かないで……」






『だからちゃんと受け入れろ。そして……笑って暮せ。そしたらちゃんとそばにいてやっからよ』





























歳三さんへ

嘘つきは私でした。
だけど貴方は嘘が嫌いだから、
嫌われたくないから、
貴方との約束、ちゃんと守ります。


……これは雨なんです。
春雨なんです。

だから私…もう泣いていません。


ただ……

もう少し、せめて本当の春が来るまでは
この春雨に濡れ続けることをどうか

許して下さい。


そしてまた桜を……共に。







もどる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
薄桜鬼をやって一度は書きたいと思っていた話です。
シリアス苦手で死ネタなんてもってのほかだったんですが……
いつかやってくる未来に、彼は、彼女は何を思い何を残すのか。
そんなことを考えながら書きました。

少しでも伝わるといいなぁ……