「終わったぞ」
一番に終了を宣言したのは斎藤先輩だった……!
「えー…ズルしてない?」
「あんたとは違う」
文句を言う沖田先輩になんなら見てみろと終わった書類を見せつける。
「……たしかに終わってる…」
斎藤先輩なんだから疑うことなんてないだろうに、皆が斎藤先輩の書類を穴があきそうなほどに確認してる。
それを黙って見ていた斎藤先輩と……目が合うと彼は少し嬉しそうな照れくさそうな顔をして…なんだか可愛い…
「おい、お前等。いい加減に負けを認めて仕事に戻りやがれ!」
土方先輩の一喝に漸く顔を上げた皆は…何と言うか…やる気が全く感じられない…
「なんかもうやる気でねぇ…」
「だな」
はぁーと溜息をつく永倉先輩とそれに同意する原田先輩。
「おい、何言って…」
「折角のバレンタインなのに千鶴のチョコも食べらんないなんて……あんまりだよな」
「うーん…絶対僕が勝つつもりだったのに…誤算だったな…」
平助君に沖田先輩までペンを放り出した。
「えっ…ちょ…」
ど、どうしよう…まだ仕事は残ってるのに……
と、困り果てたその時だった。
「千鶴……チョコレートは全員分あるんだったな?」
斎藤先輩が仕方ないと言うように溜息混じりに言った。
「はい!勿論です」
「なら全員に渡してやれ。俺一人では多すぎる……」
その言葉に目をキラキラさせる面々……わかりやすい。
「流石!斎藤!!お前いい奴だなぁ!!」(永倉先輩)
「僕はデートがしたかったんだけどね」(沖田先輩)
「もう一君最高!!」(平助君)
「たく…げんきんな奴らだ……」(土方先輩)
「そうは言ってもあんただって結構本気で勝ちにいってたじゃねぇか」(原田先輩)
なんだかんだと言いながらも嬉しそうな顔を見ると…なんだか自信が無くなってくる……
そこまで期待されるような物じゃないのに……
すると、
「安心しろ。俺はこの仕事を終わらせねばならない。あんたと何処かに行こうとは思わん」
「えー、まさかデート権放棄するの?」
「デート云々はお前が勝手に決めたんだろうが……俺は無理にとは言わん」
「じゃあ千鶴がいいよっつったら行くのか?」
私とデートする気はないと言う斎藤先輩に突っかかる沖田先輩と平助君。
私は……別にいいのにな……
「………仕事しろ。仕事が終わるまで菓子は無しだ」
平助君の質問には答えず……彼はまた仕事を始めた……
結局、私は書類が終わるまでお茶汲みやちょっとしたお手伝いをやり……
「ウメー!!」
「へぇ…上手いもんだな。いい嫁さんになれるんじゃないか?」
「そんな…褒めすぎです///」
「そんなこと無いって!いやー頑張ってたかいがあったってもんだな」
「まぁまぁかな……あれ?土方先輩甘いもの嫌いじゃなかったですか?」
「……お前は黙ってろ」
「あの…斎藤先輩は…いかがですか?」
思い思いの感想を述べてくれる彼らと違って…無言で食べている斎藤先輩に恐る恐る訊ねた。
「ああ。………うまい」
………その間はなんですか?
「んじゃ帰るか」
その後、皆で結構な時間を食べたり飲んだり(ジュースですよ、勿論)騒いでようやく帰るという話になったのは…外が暗くなってからだった。
「うわ!もう真っ暗じゃん!!」
「まだ二月だからな」
気温もグンと下がってきて白い息が濃い。
「千鶴ちゃん、送って行こうか?一人じゃ危ないでしょ?」
すると沖田先輩がそう言ってくれた。
「送って行くのは賛成だが…お前ってのがな」
「どういう意味かな?左之さん」
「そのまんまだろ……おい、斎藤!送ってやれ」
別に大丈夫ですよと言おうとしたら、土方先輩から思わぬ人に指名が入った。
「…俺…ですか?」
「ああ。それとも何か用事でもあるのか?」
「いえ」
「なら決まりだな。行くぞお前等」
それだけ言うと私と斎藤先輩を残し…他のメンバーを無理やり引っ張って去って行ってしまった。
なんというか……
「………」
「………」
気まずい……
「…行くぞ」
「は、はい」
歩きだした斎藤先輩に慌てて付いて行く。
「あ、あの斎藤先輩、別に私は大丈夫ですから…その…」
「俺に送られるのは不服か」
「そんなまさか!!」
慌てて首を振れば彼はわずかに笑った。
「あんた一人で帰すと心配だ。文句が無いなら送られてくれ」
「文句なんて…その、ありがとうございます」
斎藤先輩はいつも私に気遣ってくれる。
そんな優しさに……私は惹かれたんだ…
……ん?
「ああああああああ!!」
突然叫び声をあげた私に驚く斎藤先輩。
「どうした?」
「わ、忘れてた…」
そうだ。大事なこと忘れてた……!!
「忘れ…?忘れ物でもしたのか?」
大事なものか?と問う斎藤先輩にどうしようかと頭が真っ白になる。
「いえ忘れ物と言うか忘れてたと言うか…大事は大事ですけど…!!!」
「…?何を忘れていたんだ?」
「え」
聞かれてようやく頭が冷静さを取り戻す。
しまった。
完全にしまった……!
「え、あの、大したものじゃ……」
「さっき大事なものだと言っていただろう?」
慌てる私に首を傾げる先輩。
ど、どうしよう……!!!
「あ、あの…!!」
こうなったら話を変えよう。
「さ、斎藤先輩は甘いものが苦手なんですか!?」
ああーーーー!微妙に変わってない!!!私のバカー!!!(涙)
「…?別に嫌いではないが…」
私の慌てっぷりにどうすればいいのか困ったような斎藤先輩。
でも困ってるのは私の方なんです……うう…
「で、でもさっき……」
そこで自分が斎藤先輩のあの反応をすごく気にしてたことを自覚した。
「何の話だ?分かりやすく言ってくれ」
「……」
どうしよう……
「あの……これ…受け取って…もらえませんか…?」
もう考えるのはやめた。
考えれば考えるほどどつぼにハマってく。
だったら……
「じ、実は別のも作ったんですけど皆の前に出すのを忘れてて!!!」
もういいや。
本命と気づいてもらえなくても…食べてもらえたら…
それだけで幸せ……
「これもチョコか?」
私が差し出した小さな箱を受け取ってくれる先輩。
「はい」
少し包装を見ていた斎藤先輩は徐にラッピングを解いた。
あれ結構時間かかったのに…って今ここで食べる気ですか!?
「……トリュフか」
「は、はい…」
嫌いだっただろうか?と緊張して見ていると…その一つを彼は摘まんで口に入れた。
自分が作ったものが好きな人の口に入る……
しかも本命チョコときたら……
「旨いな」
「っ…//////」
顔がすごい勢いで赤くなるのがわかった。
「千鶴?」
「み、見ないでください!」
暗いけどそんなに近づかれると気づかれてしまう……
そう思い慌てて背を向けた。
「こちらを向け。千鶴」
「やです!」
なんでこう言う時に限って名前を連呼するのか!!
意地でも振り向かない私の後ろで…溜息がした。
それを聞いた瞬間、顔に集まっていた熱が一気に冷めた気がした……
「さ、斎藤先輩?」
「千鶴、」
怖い。
呆れられただろうか?
嫌われただろうか?
今度は怖くて……振り向けない……
「千鶴、俺は顔も見れずに返事をせねばならないのか?」
返事?
「なんの……返事ですか?」
ホントに分からなくて聞くと……不意に温かいものに包まれた。
「先輩!?」
「千鶴……」
耳元で斎藤先輩の声がする。すごく近くて……倒れそう……
「千鶴、このチョコは……本命じゃないのか?」
耳をくすぐるその言葉に……何を言われたのか分からなかった。
「皆に分けるには少なすぎるだろう?それに……」
そこで一度切った斎藤先輩は……こう繋げた。
「そうだと…嬉しい」
…………どうしよう…これは自惚れてもいいのだろうか?
もう…泣いてしまいそう……
「……」
言葉にならない。そんな私を抱きしめる彼の腕が一度離れ……肩を掴んで引いた。
「!!!!!」
「やっと顔が見れたな」
さっき以上に真っ赤だろう顔を見て嬉しそうに笑う先輩。
「その反応ならばこのチョコは本命…と言うことでいいんだな?」
その問いに……少し迷ったけれど私は……頷いた。
「そうか」
それだけ言うと斎藤先輩は私の手を引いて歩きだした。
何も言わない。
何も言われない。
そして気づけば家の前にいた……
「それじゃあ俺は帰る」
「え…」
彼の言葉に思わず声が出てしまった。
「なんだ?」
なんだと言われても……さっきの一世一代の告白は何処へ……?
「用がないならさっさと家に入れ。風邪を引く」
「………はい」
何も変わらない、彼。さっきのは…夢?
本気で泣きそうになってきた私を置いて、彼は帰ろうとする。
……私も帰ろう。帰って枕を濡らそう……と、マンションの階段を上ろうとしたときだった。
「千鶴」
振り向けば斎藤先輩がこっちを見ていた。そして……
「来月は予定を開けておけ」
そう言って踵を返した。
「来月?」
何の事だろうと考えて……
……考えて
気づいた。
「ホワイトデー?」
つまり……そういうことですか?
「………分かりにくいですよ…斎藤先輩…」
だけど……そんな貴方が大好きだから……
「ホワイトデーにはちゃんと好きって言いたいな……」
その夜、来月のことや抱きしめられたことを思い出して眠れなかったことは……私だけの秘密です。
ちなみに……
「なんで一君と帰らしたりしたんですか」
「お前……気づいて邪魔してたんだろ?」
「え?何の話?」
「平助はガキだなって話だよ」
「あれ?左之さんも気づいてたんですか?」
「まぁな。見てりゃわかる」
「何の話してんだよ、お前等!」
「新ぱっつあんもわかんねぇじゃん!何の話か教えろよ〜!」
「あーうるせぇな!公共の場で暴れるんじゃねぇ!!」
もどる
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なかなか進展しない二人……
一君…もっとグイグイって欲しいんですけどね。
どうにもこんな感じで…ホントに付き合い始めるのはあと半年くらいかかりそう(笑)
甘にしにくい人だな……
皆はちーちゃんが好きだけどちーちゃんの想いに気づいてる。(一部を除き)
だから協力したり妨害したり……でも結局二人を応援しちゃうといいよ(願望?)