「終わったよ」
一番先にそう言ったのは……沖田先輩だった!
「マジかよ!?」
「ぜってー、ズルしてるって!!」
「失礼だな。なんなら確認してみなよ」
平助君の言葉に少し怒ったように言うけど、その顔は勝利に酔いしれていた。
「……終わっている」
「たしかに……お前、出来るなら最初っから真面目にやりやがれ!!」
純粋に驚いている斎藤先輩と結局やってもやらなくても怒る土方先輩。
勿論、土方先輩の気持ちは痛いほどよくわかりますけど……
「やですよ。めんどくさい」
あははと笑う沖田先輩に……土方先輩の雷が落ちる瞬間、
「んじゃ行こうか、千鶴ちゃん」
「え!?」
私の手を強引に引いて生徒会室から飛び出した……
「い、いいんですか!?」
「だって僕、終わったし」
それはそうだけど……
生徒会室を出た後の土方先輩の怒鳴り声がまだ頭に響いてる……
「それに…約束でしょ?デート」
「あ!」
そうだ。あの勝負にはチョコだけではなくデート権も入っていたんだ!
入れたのはこの人だけど……
「それで……何処か行きたい所はない?」
「え…別に……」
急に言われても困る。
「うーん…じゃあ、このまま誰もいない学校をちょっと散歩がてらに探検しようか」
そう言って廊下を歩いていく沖田先輩。
でも……
「あの、沖田先輩……その…手…」
繋ぎっぱなしなんですけど……!
「デートなんだからこれくらいは当然」
なんなら抱っこしてあげようか?と笑う先輩に思いっきり首を横に振った。
「やっぱり誰もいないね。でも部活位はやってそうだと思ってたんだけどな」
「もう卒業式も近いですから……私の友達は今日、クラブの皆と送別会があるって言ってましたよ」
「友達って…あの千姫とかいう子?」
「はい!」
千姫(私はお千ちゃんと呼んでる)は親友で、人見知りがある私とは違ってすごく社交的で美人でモテる。
「ふーん。もしかして君も呼ばれてたんじゃない?」
「えっあの…」
「呼ばれてたんだ?」
実はその通りなのだけど……
「もともと皆さんにチョコを渡そうと思ってたので……」
ちょうどよかったのだ。
でも私の返事が気に入らなかったのか、沖田先輩の期限が目に見えて悪くなった。
「皆…にね。君はさ、本命はいないの?」
「え!?」
ドキッとした。もしかしてこの鞄の中のあれを知っているのだろうか?
「いるんだ?」
「……い、いません!!!」
咄嗟にそう言ってしまった。
「ふぅん?」
私の顔を見て、ホントかどうかを疑っている。
これじゃまるで尋問……
「いませんってば!!それに……いたって先輩には関係ないでしょう?」
だったらこっちも聞いてやる!と勢いで言ったものの……
「……そうだね。君に好きな人がいようといまいと、僕には全然関係ない」
そうきっぱりと言われてしまえば……
「…っ」
「千鶴ちゃん?」
涙が……零れた。
「ご、ごめんなさい!!」
慌てて彼とは反対方向に走り出す。
「千鶴!」
彼の声が聞こえて、私の腕に何かが触れそうになったけど、それを振り切って……私は逃げた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
いつの間にかたどり着いたその場所は……屋上だった。
「どうして…ここに来ちゃったんだろ…」
馬鹿だな。私。
……此処はいつも沖田先輩がいる場所。
よくこの場所でサボっている彼を起こしに来るのが私は好きだった。
たまに二人でのんびりご飯を食べたり……そんな時間が大好きだった。
私は……あの人が……
「…っふぇ…うっ…」
大好きだった。
「なんだ。こんなとこにいたの?」
彼の声が聞こえる。
でもなんでだろ?体が動かない。
「こんなとこで寝て……風邪ひいちゃったらどうするの」
そっか。夢なんだ。
だからこんなに……こんなに優しい声なんだ……
「まったく……話は最後まで聞いてって言ってるのにな」
呆れたような…でも嬉しそうな声。
そして頬に触れる温かい何か。
「君が誰を好きだろうと……
僕は……君が好きだよ」
「ええ!?」
目が覚めて飛び起きて……そこは屋上だった。
でも……沖田先輩はいない。
びっくりした。やっぱり……
「夢だったんだ……」
「何が?」
「え?」
「おはよう」
後ろを見れば……壁に背を預けて座る沖田先輩。
その足は……今まで私が寝ていたあたりにあって……
「えええええええええ!?!?」
「あはは。驚きすぎ」
私の驚きっぷりにお腹を抱えて笑う沖田先輩に、混乱している頭で質問を投げつける。
「いつからいたんですか!!」
「うーん…僕の膝が痺れるくらい…かな?」
これで膝枕してもらっていたの決定……
「じゃ、じゃあ……その……!!!」
あれは夢だったんですか?
そう聞こうとした私の眼に飛び込んできたのは……
「ああーーーーーー!!」
「ああ、これ?おいしかったよ」
私が持ってきたお菓子。
全部…皆の分も全部……空っぽ…
「全部食べたんですか!?」
「お腹減ってたしね。それにこれは僕のだから」
賞品でしょ?と笑う彼にそう言えばと思い出す。
でもまさか本当に全部食べるとは思わなかった……
「ああ、でも……これはまだ食べてない」
そう言って差し出したのは……あのチョコ。
「あ…」
「これ一つだけ特別っぽかったからとっておいたんだ」
はい。と私に渡す先輩。
「じゃ、そろそろ帰ろうか?もう暗くなってたし」
彼は話は終わったと立ち上がった。
ああ……やっぱりあれは夢だったんだ……
「千鶴ちゃん」
不意に呼ばれて振り向くと……
「帰るけど……いいよね?」
その言葉に私は首をかしげた。
「だから……か・え・る・よ?帰っちゃうよ?」
一言ずつ区切ったり、本当は帰りたくないような言い方をする沖田先輩の真意が分からない。
「か、帰りたいなら帰ればいいじゃないですか……」
わけがわからないと自棄になって言えば……沖田先輩はムッとしたように口を尖らせた。
「へぇ。帰っていいんだ。そう。じゃ、また月曜にね」
バイバイと背を背を向けて歩きだす。
いつもならこういう時一緒に帰ろうとか言ってくれるのにな……
今年は散々なバレンタインだ。
沖田先輩は私のこと何とも思ってないってわかったし……
チョコは知らない間に食べられてるし……
一緒に帰ってももらえないところを見ると……
嫌われたのかもしれない。
まだ……何も言ってないのに失恋決定だなんて……
そんなの嫌だ!
せめて…せめて、このチョコだけでも!!!
「先輩!!」
屋上への階段を下りている途中だった沖田先輩を大声で呼んだ。
そして……階段を駆け降りる。
「千鶴ちゃん?」
沖田先輩は下の踊り場にいた。
早く、早く…このチョコを……
「あっ!!」
「千鶴!?」
慌てたのがいけなかった……
足を滑らせて頭から落ちそうになった私を受け止めてくれたのは……勿論先輩だった。
「まったく…落ち着いて行動してって言ってるでしょ?」
「す、すみません……」
なんとか体勢を立て直し……
「で、何?」
「あ、あの!!……あれ?」
チョコを……と思ったのに……私の手にチョコがなかった。
「あ」
「え?」
下を見る沖田先輩につられて下を見ると……
「あああああ!!」
べしょっとつぶれたチョコの箱が落ちていた……
「……千鶴ちゃん?」
「すみません…もう…なんでもないです……」
終わった。
もう今年はあげるなと、
あげても無駄だと言われてるとしか思えない……
「……」
肩を落とす私を見ていた先輩は、落ちている箱を拾い上げ……
ビリビリ!
「お、沖田先輩!?」
「うん。中身は大丈夫みたいだね」
そう言って……トリュフを一つ摘まみあげて口に放りいれた。
「なっ!!」
「うん。これも美味しい」
手についたココアをなめる沖田先輩。
なんで…どうして……?
「なんでそんな顔してるの?これは僕にくれるつもりじゃなかったのかい?」
ニコニコ笑いながらまた一つ食べる彼。
そして……
「遅いから待ちくたびれたんだ。これは……その利子」
「え」
背中に当たる壁と近づいてくる沖田先輩の顔。
そして……私の口にチョコレートの味が広がった……
もどる
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強制終了(笑)
ちーちゃんがめっちゃ鈍感w
斎藤さんとちーちゃんだと鈍感コンビで話が進まないけど、
沖田さんとちーちゃんだと、沖田の計画よりちーちゃんの鈍感さが上回って話が進まない……(結局だめじゃん))