その日、雪村千鶴は悩んでいた。
……その原因はこの茶色い物体だ。
「……どうしよう…」
その物体の名は『ちょこれーと』と言うらしい。
近藤が知り合いに分けてもらった渡来品く、千鶴は見たこともなかった。
それがなぜ千鶴の手にあるかと言えば……
「折角貰った物だけど…あんなこと言われたら食べれないですよ…」
『実はな。このちよこれーとと言う物は異性にあげると想いが通じるらしい』
そうにこやかに笑って近藤はちょこれーとを千鶴に渡した。
「あう…」
頭にグルグル回るのは近藤の言葉。
『どうだ。誰かにあげてみては』
想い人。好きな人。
……そして問題は、なぜかこの話を皆が知っているということだ。
なんでもうっかり沖田に話してしまったらしい。
おかげで誰にも渡さないという選択肢はなくなってしまった。
今日会った彼等は皆期待に満ちた目で見てきて本当に困った。
「……そんなにこれが食べたいんでしょうか…」
悩めば悩むほど、どつぼにはまっていく千鶴。
しかたない……
ちょこれーとは一つ。
誰に渡しても騒動が起きるなら……
千鶴は決意した。
このちょこれーとに……私の想いを運んでもらおう…と。
……そして
「よし」
目の前には、彼の部屋。
そして………
千鶴はその部屋の前にチョコレートを置いて………逃げ出した。
不思議なことに翌日その話題が彼の口から語られることはなく…もし何か言われたら冗談ですとでも答えようと思っていた千鶴は拍子抜けした。
……しかし、事は翌月、千鶴が忘れたころにやってくる…