「うーん。いい天気だ」

縁側はいい感じに日が差し込んできている。
昼寝にはちょうどいい。

そんな縁側に腰掛ける僕の膝の上に居る千代は……

「うー、あー!」

「……痛いよ。千代」


さっきから僕を殴り続けてる。




親父は誰だ!? ベイビーパニック!

〜最強の赤ん坊 後編〜










「千代…何が不満なの」

「うー」

「うーじゃわかりません」

「あー」

「……馬鹿にしてるの?」

はーと溜息をつく。
別に赤ん坊相手に本気になってるわけじゃないよ。ただ……

「何、僕が君に何かした?」

「ぶー」

「……ごめん。ホントに思い当たらない」

なんでさっきから機嫌悪いの。僕が嫌いなの?
なんて聞いたところで答えなんか返ってこないけど。

「千鶴ちゃんが恋しいってわけでもなさそうなのにな」

じゃあ、お腹が減ってるとかオシメが濡れてるとかじゃないみたい。
要は僕が気に入らないのか。

「まったく…千鶴ちゃんそっくりな顔して……生意気」

プニっと弾力のあるやわらかいほっぺを押したら…

「うー!」

ベシっと叩かれた。

「……」

可愛くない。

「何、君。ホントムカついてきたんだけど」

両脇をもって顔を突き合わせるように抱き上げる。
ちょっと驚かせる(怯えさせる)つもりでにやりと笑いながら。

「あんまり調子乗ってると…殺しちゃうよ?」

……千鶴ちゃんなら一発で青ざめるだろう。


が、


「うあー」

べし

「あいた!」


額を叩かれた。



「クッ…何やってんだ…赤ん坊相手に…」

すると、こう言うとき一番聞きたくない声が後ろから聞こえた。
見なくてもわかる。

「別に千代を預かって遊んであげてただけですよ」

土方さんはまだ笑っている気配がする。
……千代がいなければ切ってる所なのにな。

「お前、そりゃ遊んでるんじゃなくて遊ばれてんだろ…末恐ろしいガキだな」

「………」

確かに。母親よりは度胸はあるらしい。
ま、千鶴ちゃんも大概だけど。

「うー」

「……何、まだ僕のこと叩きたりないの?」

ホント何でこんなに嫌われてるのか……ちょっと傷つくよ。僕だって。



「そりゃお前が千鶴をからかうからじゃねぇのか」



「は?」

一瞬、土方さんが何を言ったかわからなかった。

「だから…そいつは千鶴がてめぇに虐められてると思って仕返ししてんじゃねぇのか?」

「そんな…こんなに小さいのにわかるはず無いじゃないですか」

「どうだかな」

他に原因が思い当たるのか?と聞かれればそれは否。

「……別に虐めてるわけじゃないんですけどね」

「ぷっ…そんなに千代に気に入られてぇか」

堪え切れないと言うように大笑いし始めた土方さんに切りかかるのも忘れて、僕は千代を見つめていた。

「ま、精々頑張って誤解を晴らすんだな」

ま、誤解でもないが。と笑いながらどこかへ行く土方さんを無視して僕は千代を胸に抱き上げた。

「千代……僕は別に千鶴ちゃんを虐めてるわけじゃないんだよ?」

「うー」

分かってるのか、分かってないのか……

「ただね。反応が面白いって言うか、からかいがいがあるって言うか……」

「あうー」

ボカっと千代が僕を蹴る。
うん。この子はホント頭いいみたい。

「ごめんごめん。でもね…これが僕の愛情表現なんだよ」

そう言ってそっと千代を抱きしめる。
そして縁側に寝そべった。

「だから…僕のこと嫌わないで?僕は…君のお母さんが…」

そこで言葉を切った。
ふと頭によぎったのはこの子の父親。

僕にこれだけ懐かないんじゃ僕が父親と言う線は薄いかもしれない。

「……いやだな…」

これから先、誰かが彼女と愛し合って、この子が生まれて。

「………」

そんな未来は考えたくもない。

「ねぇ…君のお父様は誰?」

君には悪いけど僕はそいつを……

かなり危ない思想にたどり着きかけたとき、腕の中の温もりが重みを増した。

「千代?」

「……」

見下ろすと、スヤスヤと眠る幼子。
さっきまで僕を叩きまくってたとは思えない安心しきった寝顔。


「……可愛い」

プニっと頬を突けばふにゃりと笑った。





「うん」





その顔を見て僕はさっきまでの考えをすべて消す。

誰が父親とか関係ない。

この先の未来なんてわからない。

だからこそ……



「僕が守ってあげる」

君も、千鶴も。



そして必ず、

「君の父親になってみせるから……」



だから…おやすみ。


「大好きだよ。千代」







「あれ?沖田さん…」

千代を迎えにきた千鶴ちゃんの声で目が覚めた。
でも目は開かずに千鶴ちゃんの出方をうかがう。

するとずいぶん近づいてきてから、クスリと笑う声が聞こえた。

「ふふっ…仲良く眠って…まるで親子みたい」

ドキリとした。
嬉しくて顔が熱くなる。

「沖田さんが千代の父様なら…安心ね」

優しげな声色で、そっと僕の頭をなでる千鶴ちゃん。
その手を…僕は掴んで引っ張った。

「え!?」

「おかえり、千鶴ちゃん。ね、一緒に寝ようよ。親子三人川の字で」

「ええ!?お、親子って…!!」

「あはは。千鶴ちゃん真っ赤」

「っ…//////」

顔を赤くする千鶴ちゃんが可愛いから思わずおでこにキスでもしようかと思った。


…その時、



「うああああああああああー!!」



「ち、千代!?」

「………」





その後、千代の声を聞きつけて一君を筆頭に次々とやってくるメンバーに邪魔されたのは言うまでもない。

……どうやら僕の一番の敵は千代みたいだ。
勝てる気は…しないけどね…


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あれ?沖千(代)?

あの沖田を困らせることのできる赤ん坊…さすが千代(笑)
千代は別に沖田のことが嫌いじゃないんですよ。
ただお母さんが一番なだけで…ププっ…

2月8日 風舞 葉